第2話 戦場にて(Ⅱ)

ゾンビ化すると知性がなくなるので、記憶喪失になるかはわからないが、記憶がなくなってもおかしくはない。

体自体を変えてしまう、悪魔の薬なのだから。



「とりあえず、国内に戻ろう」


「そうですね」


少女はコクンと頷いた。





▶▶▶▶▶▶▶▶▶▶




「でも、戻るって…どう戻ります?」


ゾンビの私はもちろん門番に追い出されるでしょう。

強行突破もありかもしれませんがね。



「そ…そうだな」


おじさんはウーンと考えています。

私もちょっと考えます。


しばらくして、ハッと強行突破する作戦を思いついたので、おじさんを見ると、真後ろにゾンビがいました。




やばい。



私は咄嗟におじさんの腕を掴んで、私の背中側に投げ飛ばしました。


おじさんごめんなさい!




考え込んでたおじさんは、いきなり投げ飛ばされた衝撃で、変な悲鳴をあげてました。


獲物を取られたゾンビさんは、私を睨みます。


戦うしか、ないですか。


私は拳をぐっと握りました。





▶▶▶▶▶▶▶▶▶▶▶



まずい……。


たまたまか、それとも獲物だと思ってついてきたのか分からないがゾンビに出くわしてしまった。



あの少女は知性があるため有利だが、力や運動能力はどっちかと言うと、男に見える敵ゾンビの方が恐らく上だ。



どうする…俺も手元に武器はない…。

つまり、素手でで倒すしか…。




俺は覚悟を決め…拳を握り…少女を助けに向かったが…




「へぁ?」



あまりに予想外の状況にまた変な声を出してしまった。



敵ゾンビは…既に敗北し、地面にのびていた。




…どういうことだ…?

いくら知性があると言っても、この一瞬で勝負がつくわけがない。

…ということは、圧倒的力差があったということだ。




俺は気になって少女に近づき、もう一度首の焼印を見る。


首には国旗ともうひとつ、そのゾンビのタイプが記されている。


さっき見た時は、国旗しか見てなかったからな。

タイプが書かれてる字は小さく、ちょっとよく見ないとわかんない。



俺は今、自分よりかなり年下(に見える)少女の首元を凝視している。


普段だったら、「え、なにやってんのおっさん」って言われてもおかしくないやつだ。


実際少女も「え?」みたいな目でこちらを見ている。






あ。あった。これだ。






▶▶▶▶▶▶▶▶▶▶






さっきからおじさんが、私の首を貪り見ています。

きっと、首を何かあるんでしょうけど、街中とかだったら「え、なにやってんのおっさん」ってなりそうですね。


少し待っていると、おじさんが何かを見つけたように


「あ。あった。これだ。」



と呟きました。




「なにがです?」




首に国旗以外の何かが記されているんでしょうか?

自分の目で直接首を見るのは不可能なので国旗が書かれていることを知ったのもおじさんに言われてからですけどね。



「君の種類…かな」



おじさんは言いにくそうに言いました。



▶▶▶▶▶▶▶▶▶





「君の種類…かな」



俺は色々言葉を探した末、“種類”という言葉を選んだ。


少女は自分がゾンビだということをよく思っていない。…たぶん。

だからきっと、“ゾンビ”というワードはあまり出さない方がいい。


それで色々“ゾンビのタイプ”という言葉の言い換えを探していたんだが、“種類”しか出てこなかった。



「種類…?ですか」




少女は数秒考えてから、

「つまり…ソンビには色々な種類がいて、私がどれに該当するか…ってことですか?」


普通にゾンビって言っちゃったよ!



「…そう。今は、Aから順にDまである。弱い順にね」



さっき、ゾンビを1人軽々倒していたとすると…敵がA型、少女CかD型と考えるのが無難だ。

しかし……。





「それで…私は何型だったんですか?」


少女は質問する。





▶▶▶▶▶▶▶▶▶



「君には、type-Xと書いてあった…」



おじさんは震える声で…そう告げました。



「え?」



予想してなかった答えに私は変な声を出してしまいました。


これで、おじさんとは変な声出す仲間です(意味不明)。



「つまり…新型…ってことだ。俺も聞いたことがない。兵士にも知られていないということは、極秘で作られていたんだろう…」



「でも、DからXって飛びすぎじゃありません?」



E ~Wは、どこに行ったんですかね。

あれですか。とりあえずX使っときゃかっこいい症候群ですか。



「たぶん…それくらい圧倒的な力があるんじゃないか…?これ以上の作品が作れる気がしないから…みたいな」




「は、はあ。」



…全然嬉しくないんですよねそういうの。




「第一、なんで私が…」




私が愚痴を漏らし始めた瞬間、遠くの方でバァァァン!と音がしました。


おじさんの方を見るとやべぇ…って顔してます。





▶▶▶▶▶▶▶▶▶▶




やばい…あれは戦争がおわったことを知らせる信号弾だ…!


戦争が終わると、ゾンビに取り付けられた爆弾が爆発する…ということはこの少女も……。




俺はとりあえず、先程のゾンビから離れて座る。



「いいか。よく聞け。」



「あ。はい」



「実はな……戦争が終わったらゾンビ達は…」


真実を告げるのが、怖い。

爆破されるんだよと、言おうとすると心臓が締め付けられるように苦しい。


言わないべきか。

いや、告げなければ。


「ゾンビ達は……爆」


ドォォォォォン!!!


全てを告げる前に、近くで爆発音が連続して起こる。

直にこの少女の爆発する。


ただ、俺はその場に残った。

決めた。

…この少女とともにこの世界を去ろう。


そう思って目を瞑った。






………………

…………………

……………………………………あれ?



いつまでたっても意識がある。痛みもない。


「どうしたんですか?何か言いかけたと思ったら、ずっと目瞑ってて」


少女もピンピンしてる。


「いや…あの…でも、え?」


予想外のことが連続して起きすぎて、頭がもう限界だ。

落ち着け落ち着け。俺。



すーっはぁーっ…と深呼吸して俺は口を開いた。


「実はな、戦争が終わるとゾンビは爆破処理されるんだ」


「あ…なるほど」


少女はやっぱりかーみたいな表情。

俺のさっきの心の葛藤は何だったのだろうか。


「実はですね。気がついたらおなかに爆弾が着いてて、重くて外しちゃったんですよね」


少女は、軽い口調でとんでもないことを言う。

爆弾は鎖で体に巻き付けてあるはず。

それを力ずくで引きちぎって外したということか。


Type-Xとは、恐ろしいものだ。





▶▶▶▶▶▶▶▶▶▶▶▶▶




「重くて外しちゃったんですよね」


結構簡単に外れたあれ、やはり私を爆破するためにあったみたいです。

驚きの表情をしているおじさんを目の前にしながら、私は過去の私に感謝します。


ありがとう、過去の私。謝謝。


あ、でも、爆弾が爆発したってことは、戦争が終わったってことですよね。

ってことは、国内に戻れるのでは!


「おじさん」


「?」


「戦争が終わったなら、国内に行きましょう」


「あ、だが、方法が…」


「その事なんですけど…」


私は、おじさんがゾンビに襲われる寸前に思いついていた方法を提示します。


「兵士の武器を運ぶ馬車ありますよね。その荷台の中に私が隠れれば良いのでは」


かなり単純で運任せな作戦ですが、これしか思いつきません。数秒しか考えてませんが。


「まあ、それしかないよな」



なんか賛成されてしまいました。


いや、この作戦やばいんじゃ……と思いながらも


「じゃあ、馬車探しに行きましょう」


と言ってしまいました。


ぶっちゃけ、門番くらい余裕で倒せると思いますし。


おじさんは「そうだな」と言って立ち上がり、馬車を探しに歩き始めました。


私もそのあとをついていきます。


「そういえば、おじさんは…」


私がそう話しかけた時、ハッと思いました。


おじさんに名前を聞かなくては。

いつまでも、おじさんと呼ぶのは失礼ですよね。


「おじさんは、名前はなんて言うのですか?」


おじさんは、振り返って

「俺はフルーク。よろしくな」

と、言いました。


「では、フルークさん。行きましょう」





私とフルークさんは、血だらけになった地面を歩き、馬車を探し始めました。


時すでに夕暮れ。

オレンジ色の光が、赤黒い血を照らします。


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