死者は踊る
こんぽた星人
第1話 戦場にて(Ⅰ)
あちこちで、炎が燃えている。敵軍の戦車が次々と燃えている。
今は、戦争の真っ最中。 都市国家ペトラとその隣国の戦いだ。
俺はペトラの兵士のフルーク。
死にかけだ。
こちらの兵士100人のうち、生存が確認出来るのは俺一人。他は敵国の戦車の砲撃で吹き飛んでいった。ペトラ国の軍で
残っているのは“奴ら”だけだ。
ペトラ国の主戦力。それは、兵士でも戦車でもない。
“生物兵器”だ。
知性を持たず、周りに行く人間を殺し尽くすゾンビ。それがペトラ国の最大の武器。
しかしゾンビ達は知性を持たないゆえ、仲間を殺す可能性もある。だから、兵士はほとんど戦地に投入されない。
その生物兵器はすでに敵の戦車を壊しつくし、中にいた人を殺しまくっていた。
地獄のような光景だった。
敵を味方も皆死んでいる。
これじゃ、戦争に勝っても勝った気がしないだろう。
あ、1匹のゾンビがこちらに向かってきた。
死ぬんだな…俺。と思うといきなり時間が遅くなったように感じる。
…走馬灯っぽいものも見えてきた。
俺は母国のために戦って、その中で死ねるなら本望だ…って思って兵士になったが、母国の軍人はやたら少なかったなあ…。
後でわかったことだが、生物兵器の開発が国民にバレないためにそれを知っている兵士を最小限にしたらしい。
そう…生物兵器について国民は一切知らない。だから、ペトラ国がほとんど兵士を雇わず戦争に勝つ理由を知らない状態なのだ。
ありえないと思った。残酷だと思った。
ゾンビ化しながら苦しむ老若男女を見ていると、過呼吸になりそうなほど胸が苦しくなった。
それでも、ペトラ国は俺の母国だ。
国のために戦うため、必死に訓練したが、その結果自国の兵器に殺されようとしている。
こちらにせまっているゾンビはもう目の前にいる。
母さんごめん…俺あまり役にたてなかったよ。
こんな俺を育ててくれてありがとう母さん。
さよな・・・
「…大丈夫?」
「へ?」
思わず、間抜けな声を出してしまった。
ゾンビは、俺を殺すのではなく話しかけてきた。
「とりあえず、捕まって」
……は!?
▶▶▶▶▶▶▶▶▶▶▶
死にかけのおじさんに手をかそうとしたらめちゃくちゃ驚かれたんですけど。
でも、当たり前ですかね。だって私、ゾンビなんですから。
弱りきってるおじさんの肩をなんとか支えて、急いで戦車の射程範囲外に向かいます。
おじさんはまだ目の前の光景が信じられないようで、目をキョロキョロさせながら、なにか言おうとしてはやめ…なにか言おうとしてはやめ…を繰り返します。
とりあえず、安全そうな場所に来たのでおじさんを地面に座らせて、私も隣に座りました。
「ふぅ…大丈夫ですか?」
私は、勇気を振り絞っておじさんに話しかけてみました。
▶▶▶▶▶▶▶▶▶
やばい…話しかけられてる…。
答えなきゃ…だよな?
「あ、ああ。大丈夫…です」
俺は恐怖でうまく喋れない中、やっと言葉にしたのがこの一言だ。すごい年下の人に、思わず敬語を使ってしまった。
どうすればいいんだ…この状況。
この少女は…ゾンビだ。間違いない。
ペトラ国のゾンビは首に国旗の焼印がある。
この少女にも…ある。
しかし、ゾンビには知性は無いはず。それにもかかわらず、この少女は平気で俺に話しかけている。
何者なんだこいつは…新型のゾンビか?
いや、そんな話は聞いてない…。
直接的…聞いて…見るか。
「君は…何者なんだ?なぜ知性がある?」
一瞬…沈黙がその場を支配した。
▶▶▶▶▶▶▶▶▶▶
…きました。この質問。絶対聞かれると思ってました。
そう思ってても、準備してても、胸が苦しくなります。
この質問を聞くと自分がゾンビだということをはっきりと再認識させられて、つらいんです。
でも、無視するわけにはいきませんので答えます。
「ゾンビです」
バッ!とおじさんの目が見開きましたが、すぐに普通の目にもどり「やっぱり、そうだよなあ…」と呟きます。
私に知性があることを不思議に思ってるんでしょうか。
「なぜ知性が…ある?」
やっぱりそうなりますよね。
▶▶▶▶▶▶▶▶▶
「なぜ知性が…ある?」
俺は、問う。
新型か、それともたまたまなのか。
「わかりません」
少女は、はぁ…と溜息をつきながら言った。
人生を諦めているような感じだ。
「気づいたらこうなってました。生前の記憶もほとんどないです」
「ほとんど?」
思わず聞き返してしまった。
ほとんど…ということは少し覚えているのか?
「厳重な扉がついた車に入れられて、その中で薬の飲まされたことくらいです。覚えているのは」
「そうか…」
掘り出してはいけないものを掘り出してしまったような…感じがする。
薬というのは、恐らくゾンビ化する薬だ。
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