軋め機械音、唸れ太腿
軋む機械音、唸る太腿
噴き出る汗が
薄い青色のシャツを黒く染めて
先の見えない山が聳え立つ
だんだん傾斜は大きくなり
体重を乗せたペダルが
駄々をこねる子どもにも負けない反抗が
足裏に伝わる
鬼の面をした両親の良心に身を任せ
反抗を抑え込み
交互とやってくる波を
右へ左へ抑え込む
軋む機械音、唸る太腿
やがて座っていられなくなり
ついに立ち上がる
踏ん張る力は
今まで出したこともないだろう大きな回転
でも
進む速さは最も遅く
周りを見ると
四駆の鉄塊に軽々と抜かされる
山はまだ続く
軋む機械音、唸る太腿
悲鳴は聞こえない
一足一足全体重をかけて徒歩と変わらず進む
いや
進んでいるのかわからない
しばらく前を向いてない
聞こえるのは
横を過ぎる排気音と情けない口呼吸
空はずっと青く
ずっとあついまま
軋む機械音、唸る太腿
ふらりとバランスが悪くなり
地面に足が降りる
見下げると
まだここまでしか来ていないのか、と
見上げると
まだまだ先は長い、と
嫌になるの側にもう一度跨ると
踏み切るペダルが岩のようになっていた
自分の両足を疑って
路傍の石にも思わない鉄塊達に
怨めしく羨ましい意思を反芻する
咀嚼した先に希望は見えず
両足もまた跨る希望を出さない
暫く振りに空は翳り出す
静まる機械音、嘆く太腿
しばらく止まった足元は
滴る水滴で濡れている
押して上がることもせず
足を上げることもせず
どこに向かっているのか見失ってしまった旅人に
時間は鋭い槍のように降ってくる
体力は既にない
気力も残っておらず
非力な体が労力を絞りきって登った力業であったことをまじまじと見つめさせられる槍が体を絶えず刳る
足元に溜まった水滴は
やがて水溜りとなり
傾きから進行とは逆に流れ始める
軌跡をたどるその水滴の流れは
最初は小さなものだった
やがて大きくなりそこに小さな川ができる
奇跡か
希望の無くした軌跡に奇跡が起きているのか
軋み出す機械音、唸りだす太腿
まだ山は越えない
目的地は毛ほども見えない
手足に力はなくなり
渇いた体からは止め処なく汗が流れる
山は明日も明後日も佇み続ける
けれども
軋め機械音、唸れ太腿
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