妹に感づかれる

 帰宅している途中に、サヤカからLINEがきた。

「いつ公園に行ける?早めに行けるならそうしてくれるとありがたいけど。」 

どういう意味だろう?なにか急ぐ理由があるのだろうか?

 僕はすぐに返信を送った。

「いいけど、21時ぐらいでいい?もしかして急いでる?」

彼女からすぐに返信がきた。

「そう。ちょっと用事があって、できれば早い方がいいかなと思って。」

「そうか、わかった。」

別に問題はなかった。親が不審に思わなければ、それでいい。

 昨日はなんとか親をごまかせた。21時半ごろにコンビニに行くと嘘をついて家を抜け出たときには特に怪しく思っている節もなかったし、家に帰ってきた24時ごろにはもう寝ていたからだ。

 うちの親は寝るのが早い。夜ご飯を20時に食べ、22時ごろには寝てしまう。

 今日も、同じような手口を使えば、おおむね大丈夫だろう。


 家に帰って、風呂を浴びた後家族でご飯を食べた。たわいのない話をしながらも内心気が気ではなかった。

 僕は不良だ。

 深夜に公園で2個上の高校生に会う。そういうことをしてしまう不良だ。

 別にやましいことをしているわけではない。でも、そう思われたって不思議ではない。

 もしそんなことが親にばれたら…。

 こっぴどく叱られるだろうし、もう二度とサヤカさんにも会えないかもしれない。

 かといって、LINEの返事をしてしまった以上、サヤカさんを裏切って公園に行かないことはできない。

 僕はちらりと親の顔を見た。二人はのほほんとした顔をして米粒をほおばりながらバカみたいな顔をしてテレビを見ている。

 大丈夫だ。この親なら。よもや自分の息子が不良だなんて思ってもいないだろう。

 ほっと息をついて時計を見ると、20時30分になっていた。

「ごちそうさま。ちょっとTSUTAYAでDVD見てくるわ。」

親はテレビにくぎ付けだ。僕の顔なんか見向きもしないで、気のない返事だけが返ってきた。

「行ってらっしゃい。」


 玄関で靴ひもを結んでいると、背後から声をかけられた。

「お兄ちゃん…?」

振り向くと、そこに今年で小学校六年生になる妹が立っていた。

 そうか…。こいつがいた…。完全に忘れていた。

「どうした?」

「わたしも一緒に行っていい?」

ずいぶん神妙な顔でこちらを見つめている。

「なんで?」

「なんでって…。わたしも見たいDVDがあるから。」

平然とついていこうとする妹に、僕は驚いた。

 とても甘えているようには見えなかった。

 正直、僕と妹はそこまで仲がいい方じゃない。悪くはないが、良くもない。お互いに興味を持たない間柄だ。だから、こんな風に妹が僕と行動を共にしようとするのはごくまれである。

 どういう風の吹き回しだ?もしや、嘘をついていることを見抜かれた?

 とはいえ、ここはなんとかごまかすしか方法があるまい。

「名前言えよ。一緒に買ってくるから。ついてこなくていいよ。」

多少冷たく突き放すように言うと、妹の顔から笑みがこぼれた。

「え?なんでついていってほしくないの?なんかまずいことでもあるの?」

「別にないよ。ただ、中学生にもなって妹と一緒にいるのをほかの友達に見られでもしたら、恥ずかしいだろう?」

「へえ…。」

妹はなにか考えているようだった。

「アベンジャーズ。借りてきて。」

「おう、わかった。」

やっとこの場から逃れられると思い、外に出ようとドアノブに手をかけた瞬間、またも呼び止められた。

「ねえ…」

「なんだよ。」

「なんか隠してない?」

「隠してないよ。」

「どうして昨日、帰ってくるの遅かったの?ただコンビニ行くだけでしょ?2時間も帰ってこなかったじゃん。」

「買うもの決めるのに時間かかったんだよ。それから少し夜道を散歩してたんだ。」

「ふーん、そうなんだ。」

「いいだろ、もう行くぞ。」

妹はなにか腑に落ちないようだった。

「お兄ちゃん、なんか悩んでいることあったら、いつでも相談してね。わたし、あなたの味方だから。」

思いがけないことを言われて、僕はびっくりした。

「なんだよ。別に悩み事なんかないから。」

「そう…。それならいいんだけど。」

「行ってきます。」

「行ってらっしゃい。」

完全に妹に感づかれているわ、これ。

めんどくさいことになったなあ。



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彼女×カノジョ じゅん @kiboutomirai

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