アヤカとサヤカ

「え…。」

佐藤彩香?だ、だれ?

「君は、アヤちゃんじゃないの?」

「ひっどーい!忘れちゃったの!?小学生のころ散々あんたのことこき使ってたのに!!

 わたしは、佐藤彩香。あんたの幼馴染よ。」

「じゃ、じゃあ…。うちのクラスの転校生の佐藤綾香っていうのは…。」

「ああ、あれはわたしの妹よ。けっこう生意気でしょ?」

サヤカさんは、まじめな顔でそう言った。

 

 どういうことだ!?僕は錯乱した。

 今まで僕の記憶の中にいた佐藤綾香という人は、もしかして佐藤彩香という全くの別人だったのか!?

 僕はずっと勘違いしていたのか!?東京にいたころずっと一緒にいたのは、姉の佐藤彩香さんだったけど、いつのまにか記憶がすり替わって妹の佐藤綾香さんと一緒にいたことになっていたのだろうか。

 うーん…。あまり記憶力には自信がないので、どっちだったのかよくわからなくなった。でも確かに、アヤちゃんには2個上のお姉さんがいたような気がする…。

 

 もう一度僕はサヤカさんをまじまじと見つめた。

 それにしても、アヤちゃんそっくりだ。

 大きな黒い瞳。鼻筋の通った顔立ち。優しいカーブを描いた眉。肩まで伸ばした髪の艶やかさ。

 サヤカさんはアヤちゃんと見間違うほど、とびきりの美人だった。だけど、彼女にはアヤちゃんのとげとげしさがなくなって、より明るく元気な女の子に見えた。

「なに?ずっとわたしのことを妹と勘違いしていたの?確かにわたしとアヤカは似ているけど、間違えるほどじゃあないと思うけど…。

 ひどい!!あんたはそこまでわたしのことを忘れてしまったのね…。顔を見ても、妹と区別がつかないくらいわたしへの興味が薄れてしまったんだわ。」

「ごめんね…サヤカさん…。今日は朝からアヤちゃんに会っていたし、僕を公園に呼び寄せたのはアヤちゃんだったから、君のことを彼女だと勘違いしてしまったんだ。本当にごめん。」

僕は深々と頭を下げた。

「あやまらないで。わたしのこと、思い出してくれたならそれでいいから。それに、サヤカさんって呼び方はやめてくれない?サヤちゃんでいいから。それか、サヤカ様でもいいよ。」

彼女はそう言って、いたずらっぽく笑う。

 その笑顔を見て、僕は四年前にタイムスリップしたような気持ちになった。

「じゃあ、サヤちゃんで。」

サヤちゃんは何も言わずにうなずいた。


 僕は少しだけ考えた。

 間違いない。この雰囲気。この風貌。このやりとり。僕の記憶の中に閉じ込められていたのは、アヤちゃんではない。僕はずっと思い違いをしていたんだ。四年間ずっと僕を苦しめ、かばい、友達であり続けてくれたのは、サヤちゃんだ。

 自然に涙が流れてきそうで、僕は小さく唇をかんだ。

 「サヤちゃん…。ずっと君に言いそびれていたことがあるんだ…。」

 

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