謎のLINE
その日帰ってからも、僕は何も手につかなかった。
何か心の中にモヤモヤしたわだかまりがあって、取り除けずにいたのだ。
勉強しようと思っても、どうにも集中できなかった。数学のノートに書かれた記号たちが僕の頭を混乱させる。
一体僕は何をしたいのだろう。
ただ謝って、これまで通り仲良くしたい。そう思っているのだろうか。
だとしたら、果たして謝る必要なんてあるのか。そう自分に問いかけたくなる。なにせ四年も前の話だ。覚えていない可能性はある。いやたとえ覚えているにしても、いまさら謝ってほしいとも思っていないかもしれない。
でも、あのよそよそしい態度はどうしてなのだろう。あそこまで毛嫌いする必要はないのではないか。
僕は今まで、そこまで嫌われるようなことをしてきたのだろうか?
せめて過去のことは水に流して、普通に話してくれたらいいのに。
はあ…。考えてもどうしようもない。今は、なにもできない。
僕は次から次へと湧き出てくる泡のような不安をせき止めるかのように、考えることをやめた。
ベッドに横たわり、スマホをいじる。
ピロン。LINEの通知の音が鳴った。
クラスのグループLINEが久しぶりに動いたらしい。
画面に映った文字を何の気もなしに読む。
「佐藤綾香さんが参加しました。」
あいつ、スマホ持ってたんだ…。
僕は彼女のアイコンを見ていた。
可愛らしい熊のぬいぐるみの絵だった。
すっかり、あいつも変わってしまったなあ…。もっと男っぽいやつだったんだが…。こんな女っぽい趣味を持つようになったんだ。
なにもかも、移り変わっていく。
僕と彼女の関係だって、変わってしまった。昔は近すぎて遠ざけたいほどだったのに、今は近づきたくても近づけないほどの壁がある。
それは当たり前のことだ。でも、どこか受け入れがたい寂しさを感じている。
そんなことをとりとめもなく考えていると、またピロンとLINEの音が鳴った。
今度はなんだろうと画面を見て、僕は自分の目を疑った。
そのLINEは、佐藤綾香からのものだった。
「今、ひま?22時に桜坂公園に来てほしいんだけど。」
僕は一瞬、自分の体全体に電流が走ったかのような衝撃を感じた。気が動転してしまって、小刻みに手が震えている。
なぜ、僕のLINEがわかった?
最初に出てきたのはその疑問だった。でもその疑問はすぐに解決した。彼女はクラスのグループLINEから僕のアカウントを見つけ出したのだろう。
でも、どうしてこんな連絡をよこしたんだ?あんなに僕のこと嫌がっていたのに?
頭が混乱して、僕はどうすればいいのかわからなくなった。
いたずら?いやいや、そんなことをするとは思えない。彼女の気性は荒かったが、ついぞ嘘をついたことなどなかった。
…。とすると、なぜ僕を呼んだんだ?
なにか大事な話でもあるというのか?
それとも、過去の事件についてしっかりと話をつけたいと思っているのだろうか。
もしそうなら、僕にとって願ってもいないチャンスだった。
ここで理由を問いただすのは、いささか野暮だろう。
理由を聞かず、僕は22時に行くと返信を打った。
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