第56話 先回り

「好きです!付き合ってください!」


私は、中学2年生になっても、男に告られていた。


今日は、顔も性格も特別ブサイクな、豚みたいな顔面をした醜い男に。


体育館裏に呼び出されて、告白される。根暗な奴らが、彼の近くに隠れていることが、ひそひそとした声が聞こえて来ることから分かる。あいつらは、バレないとでも思っているのか。


類は友を呼ぶ。こいつもこいつなら、その友達もダサいんだろうな。



『そうだったんだ、ありがとうございます!』


最近会った、あの高校生のことを思い出す。


少し、控えめで気の弱そうな人だったけど、お母さんの言う通り、物腰が柔らかく、感じのいい人だった。


あの人は、どう思うだろう。


毎日のように男から告白される私のことを。


クラスの中で、きっと控えめなタイプだろう彼は、私みたいな、悪い意味で派手な人間のことをどう思うだろう。不純で不誠実な人間だと思うだろうか。


今後の人生を左右するだろう告白を、軽く受け流しながら、彼のことを思い出す。相手にとっては大変失礼なことなんだろうけど、後ろに取り巻きをつけるのもなかなか失礼だと思う。付き合う気は毛頭ないけど、せめて1人で来れるようになってから、挑んで欲しい。


「少しだけ、考えさせてください」


そう答えた。なんでそう言ったのか、自分でも分からない。


それは多分、あの人に話してみたかった。少し頼りなく見えるけど、自分より3歳も年上の、大人の男。


あの人が、それについてなんて言うか、気になった。


「じゃあ、日曜日にデートしてください!」


「はぁ?」


さすがに呆れる。「それは出来ない」と言おうとしたのに、私の拒否を未然に防ぐかのように「じゃあっ!」と言って、地面を強く蹴って、非常にカッコ悪い姿勢で走り去る。





「なんで分かったの?」


「何が?」


「だから、男にコクられたこと!なんで分かったのかって聞いてんの!」



その日は、お母さんは高校時代の友人たちとの飲み会で出てったため、私が店番をした。


私が小学校高学年ぐらいの時から、お母さんは飲み会に行くようになった。1人でも、心配されることなく、むしろ店番を頼まれるから、自分が大人になったみたいで嬉しかった。



心の声が無意識に外に出てしまった、という顔で、あっ、と口に手を当てる彼。


一方で私も、告白されたことを彼に話そうとしたのに、先回りされたものだから面食らっている。


しばらく、時間が止まったように、お互いに声を出さなかった。



その後、お店を閉めて、彼を公園に連れ出す。

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