第54話 幻滅

次の日。


私は、友永を校舎裏に呼び出した。


「部活始まっちゃうから手短にね」という声に対する怒りを、なんとか抑えながら『別れたい』の理由を尋ねる。そして、出来ることなら、阻止したい。


「どうして、別れたいの?」


単刀直入に聞けた私は、我ながらに勇気があると思った。


「だって…」


「だって…?」


「お前、クラスのやつらに嫌われてんじゃん。だから、俺も評判下がるっつーか。部活の中でもお前の話で茶化されるからさ。そういうのが嫌なんだよ」



は? 何それ?


思いもしない彼の発言に、私は言葉が出なかった。


庇ったりするんじゃない? 普通だったら。


なんで、彼女を守ろうとしないの?



「あっそ。じゃあ、別れよ」


やっと、喋れるようになった私は、自分でも分かるくらい冷たい声が出た。




1人で歩く帰り道。


ああいうことがあった後は、普通は泣くものだと思っていたが、どうしても振られたという実感が持てなくて、「別れたんだな私たち」と他人事のように感じていた。


振られて悲しい、というよりも、あいつに幻滅した気持ちの方が大きいからだと思う。

周りに影響されて、自分の女1人も守ることのできない腰抜け。


嘘をついて欲しかった。あんなバカ正直に、「嫌」なんて言わなくてもいいんじゃないか。




丘の上の公園、ベンチに座って、ぼんやりと夕日を眺める。


10月の、ほんのりと冷たい風。気持ちがいい。


あいつだけは、味方だと思ってたのにな…。


雲1つない、清々しい、オレンジ色の空。


雨なんて降っていないのに、目の下あたりを、数滴の雫が滑り落ちる。



私は、泣いていた。


顔が、どんどん崩れていく。



悔しいのか、寂しいのか、分からなかったけど、私は、泣いていた。

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