第38話 祈り
「おかえりなさ〜い」
20時。
父さんが帰ってきた。今日は少しだけ、残業していたみたいだ。
食卓の上には、依然として3人分の肉じゃがや、冷奴が置いてある。
うちは、父さんが帰って来る前にご飯を食べるのは禁止されている。もちろん、このルールは、時代遅れのセンスのない私の父親が決めたもの。
自分は、会社の付き合いを言い訳にして外食だの飲み会だの行くくせして、私たちは外食も、父さんがいないと出来ない。
ご飯を食べたのは20時10分ごろ、チンタラ着替える父さんを待ち、ようやくご飯を口に運んだ。
「今日ね、嬉しいことがあったの」
静寂を切り裂くのは、いつも母さん。首を向ける父さんに向かって続ける。
「最近、サトちゃんに男友達ができて、今日その子たちが来たの!もうそれは、仲が良くて…」
「本当か?」
「ええ、本当よ!」と答える母さん。
本当か、なんて、そんな寂しい嘘をつくとでも思ってたのか、このバカな父親は。
「書いていいよね?約束でしょ?」
私は条件を満たせた嬉しさから、父さんに条件を再確認する。
しかし。
「ダメだ」
私は、えっ、という声は出さず、口の形だけがそうなって、しばらく固まった。
「約束は約束…」
父さんが私の言い分を遮断する。
「こうでも言わないと、お前は男友達を作らないだろう?いいじゃないか、もう1人であんなものを書かなくて済むだろ?」
なんだよそれ、ふざけんな。
前みたいに、大声をあげたかったけど、頰の痛みと父親の剣幕を思い出して、何も言えなかった。
それから、部屋に戻って、どのくらいの時間が経ったか分からない。
ただ、頭の中にあるのは、騙されたという、屈辱的な事実。
死ねばいいのに、あんなやつ。
私は、本当に死んで欲しい人間を『殺せる』。そんな気がした。
祈れば、呪えば、心の底から、死んでしまえと唱えれば、絶対に死んでくれるはず。
根拠はないのに、どうしてそう思うんだろう。
ただ、いつからか、私にはそんなことが出来る。なんとなく、そう感じていた。
とにかく、私は今、あのクズみたいな父親に死んで欲しかった。
あんなセンスのない男、死ねばいい。
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