09、
書道の授業の後は、心理学の授業だった。
眠い授業だ。おかしなイントネーションでしゃべる教授の声は、ただの子守歌にしかならない。一卵性双生児と二卵性双生児の遺伝子の相違を難しいたくさんの数字と共に説明している。
一卵性双生児。
私の友達のお姉ちゃんたちが一卵性双生児だった。
小さいときから、聞いた言葉をまず頭の中で漢字に変換しようとする癖のある私は、どうしても「イチランセイソウセイジ」が正しく変換できなかった。何度やっても「一卵性ソーセージ」としか変換できなかった。
口に出して「イチランセイソウセイジ」と言えば同じなのだが、頭の中ではどうしても「一卵性ソーセージ」とやってしまう。美味しそうな双子。
「えっと、たぶん、好きじゃなくなったと思う」
昨日、とんでもなく曖昧に彼が言った。
私は笑うことも怒ることもできず、ただしどろもどろ「それは別れようってこと?」と真顔で聞いた。
私の質問に、どろりとうなだれるように頷いた彼を見てふと思った。私たちの恋愛ってどうだったんだろう、と。しかし即座に考えるのをやめた。今現在無くなってしまったものの中身など、もうどうでも良い気がしたのだ。
三文芝居のような別れ話。
思えば、この時も耳にカビが生えていたのか。なんだか笑えてしまう。
以前の心理学の授業で「思春期の恋愛は、自分本位なのだ」と言っていたことを思い出した。
「誰かに愛されたい。大事にされたい。認められたい。その思いを叶えてくれるのにちょうどいいものが〈恋愛〉なんですね」
思春期の恋愛は、気持ちの押し付け合い。自分が、自分がとの猛アピール。そうして、どちらかが耐えられなくなって破局する。それでも、誰かに自分の気持ちを満たしてほしくて、また自分本位な恋をする。その分、回転が速い。教授はスライドで、誰かが、そんな人間のどうでもいい日常を切り取って研究した結果を、次々と見せながら説明していた。
私の恋愛は違う、と思っていた自分に呆れた。
耳にカビを生やしてしまったことには勝てない程度だけれど。
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