08、

 へたくそな字で、『偽物いろは歌』を書いた。書道の授業中。

『偽物いろは歌』は「ん」まで入ったいろは歌で、私たちが日ごろ親しんでいる「いろはにほへと ちりぬるを…」というのとは、違う。私はそれを『偽物いろは歌』と勝手に呼んでいる。


 とりなくこゑす ゆめさませ

 みよあけわたる ひんかしを

 そらいろはえて おきつへに

 ほふねむれゐぬ もやのうち


 私は『偽物いろは歌』の「ね」と書かなければいけないところに、勢いよく「れ」と書いた。仕方がないので、「れ」のところを「ね」に変えた。「ね」のカーブのところが墨が少なくなって、かすれた。筆もくるんと一緒にカーブしてそのままのカタチになっている。


 とりなくこゑす ゆめさませ

 みよあけわたる ひんかしを

 そらいろはえて おきつへに

 ほふれむねゐぬ もやのうち



 分からないだろうと思ってこのまま、提出したら、ひょろんとした字で、「れ」と「ね」に丸をつけられ「ちがう」と書かれた。

 分かっている。

 私は、やっぱりいろは歌は、いろはにほへと…が好きだなと思う。手は、相変わらずぶるぶる震えていた。

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