02、

「ジェネリック医薬品はどうなさいますか」

 人のよさそうな薬剤師のおばさんが、笑顔で言う。

 カタカナは苦手だ。ゆっくりと頭の中で文字が並んだ。慎重に一文字ずつ確認しても、よく分からない。

「えっと、なんですか、それ。」


 ジェネリック。

 聞いたことが有るような無いような。

「ジェネリック医薬品を希望される方は通常に処方された医薬品よりもお値段の安い医薬品に切り替えることができます」

 当たり前です。とでも言うようにおばさんは慣れた口調で言うけれど、実際は、なんだよそれという感じだ。どうして安くできるなら、みんな平等に安くしないのだろう。どうして安い価格の方を希望者だけにするのだろう。高い医薬品と安い医薬品の違いって何なのだろう。聞けば全て答えてくれるのだろうけど、私は一切が面倒になってしまう。

「通常通りでいいです」

 値段が高い方が、効きそうな気がする。

「では、お薬の説明をしますね。今回は、外耳炎か何かですか」

「あ、いえ、カビが…生えて」

 私はまた途方に暮れてしまう。

 耳にカビが生えた。生きてきた中でこれ程までに自分に呆れたことが他にあっただろうか。

 今日が来るまで、私の人生の中の「最も呆れたエピソード」は、小学二年生の時の大脱走だった。

 大脱走と言っても本人はそんなつもりはさらさらない。いたって真面目な大脱走である。

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