至福のパイシートヤキ

 突然だが、私にとって、パイは憧れの存在である。


 こんがりと焼けた生地。幾重にも重なりあった層。噛めばサクッとした心地よい食感と、バターの香ばしさが口に広がる。

 なにかを覆い隠し、包み隠す調理も、また魅惑的。

 どこかオシャレな料理店や、カフェに行けば出会える、心を惹きつけてやまない料理。


 ない胸を張って言おう。私にとって、パイは憧れである。


 というわけで、今回はそんなパイを使った料理に挑戦してみた!


 題して、「パイシートヤキ」である。


 作り方は簡単。


①冷凍のパイシートを買う。


②パイシート1枚を、切らずに、なにもつけずに、なにも手を加えずに、説明書通りにオーブンで焼く。


 以上だ。


 ……。なに? そのまま焼いただけ? 料理してないじゃん? だと……。


 なにを言うか!? 憧れのパイ先輩に手を加えるなど、私のような凡人がしてはいけない。パイ先輩に対して不敬だ!


 何度となくパイシートを買い、何度となくなにかを包み、何度となく失敗をして、この美味しくないエッセイにすら書けないものを作り出してきた私がたどり着いた答え。それがこれだ。


 ない胸を張って言わせてもらう。


 パイシートは、なにも手を加えずにそのまま焼いて食べるのが、一番美味しい!!


 と、熱弁をしている間に、パイシートが焼けたようだ。


 おぉ……。パイシート丸々1枚。およそ縦12センチ横18センチのシートが、ぷっくりと層になってふくらんでいる。こんがりと香ばしい匂いが、辺りに漂う。


 あと、表面に卵黄を塗らなかったから、ちょっと黒焦げてる……。


 そんなことは気にせず。取り出してすぐに、熱っ、熱っ、と言いながら、端を持って、焼き立てを、一口……。


 サクッ。


 儚くもろく崩れていく表層、なんの抵抗もなく裂ける中層、そして、私が一番好きなのが、最も下層の部分。

 柔らかすぎず、固すぎず、歯に少しだけ力を入れて、噛みちぎるこの感覚。

 そして、口の中に広がるバターの香りと小麦粉の風味。


 既製品なのだから、美味しくないわけがない。


 こぼれていく欠片も気にせず、もう一口、二口とかぶりつく。お腹いっぱいになって今日の夕食が食べられなくなってもいいから、全部食べよう!


 極めつけに、少しだけアレンジ。板チョコを湯煎で溶かして、パイの上に塗りたくる。


 ん~、チョコとパイ、ベストマッチしないわけがない!


 焼き立ての至福を味わったら、3分の1だけ残して、冷蔵庫へ。

 少し経って、冷えたパイもまた格別。

 焼き立てよりも固くなって、噛み応えが増しております。


 サクサク、サクサクッ。


 幸せな食感テクスチャーを堪能しました。


 「パイシートヤキ」至福に包まれて、ごちそうさまです。



p.s.今回は、美味しい料理だったんだけど……。パイシートを買ってまで人に勧める料理かと言われると、違うと思ったので書きました……。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る