4話 此処から始まる物語2

「ご、ごめん、大丈夫?」


 申し訳なさそうに、彼は手を差し伸べた。


「このくらい、問題ないさ」


 手を取り、立ち上がり、埃を払う。

 頭一つ分位だろうか、彼の方が小さかった。

 幸い怪我をしてはいないようだ。

 もし仮に怪我をしていたら、彼はどのような行動をしてくれるだろうか。

 慌てる? 慌てて頭を下げるだろうか。

 いや、慌ててもきっと、手当てを優先しそうだ。うん、きっとそうだろう。


「……」

「……」


 ふと交わってしまった視線は、反らすことが出来ず、互いに金縛りにでもあったかのように固まってしまった。


――想いの人が、変わらず其処にいた


 色々と、言葉を掛けたかった。


 しかし驚愕を受けた胸中では、再会を喜ぶ言葉すら浮かんでは来なかった。


 温かな一陣の風が、私達に桜の花びらを届けてくれる。


 そこで、ハッと我にかえる。それは彼も同じようで。

 しかし無情にも、時間切れのチャイムが遠くで鳴り響いた。


「急ごう、式が始まるまではまだ時間がある」


 やっとの事で口にした言葉とともに、彼の手を取り、走り出す。

 彼との再会に胸を踊らせながら、これから始まる新たな物語に、期待をせずには居られなかった。



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