3話 此処から始まる物語1

「ご、ごめん、大丈夫?」


 突然の事に、ボクは戸惑いながらも、突き飛ばしてしまった彼に手を伸ばす。


「このくらい、問題ないさ」


 手を取り、立ち上がり、埃を払う。

 頭一つ分、彼の方が大きかった。

 幸い、怪我は無いようで、ボクはほっと胸を撫で下ろす。


「……」

「……」


 ふと交わってしまった視線は、反らすことが出来ず、互いに金縛りにでもあったかのように固まってしまった。


 ――憧れの人は、より一層に輝いていて


 本当は、話しかけたかった。

 久し振りだね、とか。

 元気だった?、とか。

 相変わらず格好良いね、とか。


 でも、唇の動かし方を忘れるほどに、声の出し方を忘れるほどに、ボクは彼に魅了されていた。


 温かな一陣の風が、ボク達に桜の花びらを届けてくれる。


 そこで、ハッと我にかえる。それは彼も同じようで。

 しかし無情にも、時間切れのチャイムが遠くで鳴り響いた。


「急ごう、式が始まるまではまだ時間がある」


 ボクの手を取り、彼は駆け出す。

 慌ててボクも走り出す。

 突然手を握られたことに鼓動を高めながら、これから始まる学園生活に、期待をせずには居られなかった。



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