第6話
前から部屋に連れていかれる事はたまにあったけど、今回はいつもと違って少しスキンシップが激しかった気がする。なんでだろう?
母さん達が帰ってきたおかげで姉さんから解放された。
姉さんは不満そうだったけどこれから引っ越しの準備をするということになったため、渋々了承してくれた。
母さん達が言うには、国と学校に話をつけてきたみたいで承諾を得られたそうだ。特待生?を断って普通の学生と同じ様に受験を受けて学校に行くことになったみたい。なんでも外で普通の学生生活を体験してほしいからとか常識を知るためにだそうだ。
その学校の受験が近々あるそうなので急いで引っ越しの準備が必要になった。外の家は既にあるみたいだから持って行きたいのを各自で用意するだけでいいみたい。
うーん、持って行くのはお気に入りの枕と画材だけでいいかな。後は姉さんと薫子さんに任せよう。
「持っていくものは決まったか?準備が出来次第、転移を始めるからここに荷物を置いてくれ。」
菫母さんがリビングによく分からない模様の上に腕を組んで立って呼び掛けていた。
「転移なんてできたの?知らなかった。」
「うん?あ、そうか。紫苑が見るのは始めてか、これは私と牡丹しかできない秘術みたいなものだ。」
そんなものあるんだ、と言いいながら持っていくもの置いていく。
「ん?寝具と画材だけでいいのか?紫苑のお気に入りの絵は持って行かなくていいのか。」
「それは別にいい、また描くから。」
「そうか。なら残しておくのは勿体無いから私が貰っていいか?」
「欲しいならいいけど、毎回貰ってるよね?」
「あぁ、紫苑の描いた絵は外の世界で評判が良いらしくてな。美術館に展示しているんだ。」
へぇー、と相槌をしたけどよく分からなかった。
話をしている間に姉さんと薫子さんがリビングにやって来た。大量の荷物を持って。キャリーバッグを1人3つ持って来た。
「おいおい、その荷物の量はなんだ。ゆりはたぶん紫苑の分があって多いのは分かるが、薫子の荷物は何が入ってるんだ。」
「はい、こちらの中身は私の一族に言われていた物で今までのゆり様、紫苑様の成長を記録したものです。これは私以外の一族が総意で欲しがっていたものになりますので持つて行こうかと思いまして。」
「そ、そうか。それならこの荷物の量も仕方ないのか?」
「仕方ないのです。」
真剣な表情で言う薫子さんに負けてこれ以上何か言うのをあきらめる菫であった。そうこうしているうちに引っ越しの準備が終わったみたいだ。
「よし、これからお前たちを日本の住む家に転移させる。そうしたら暫くは私と牡丹に会えなくなると思うが、ゆりと紫苑なら大丈夫だと信じてる。まあ、何かあっても薫子がいるから心配はないな。」
「外の世界はいろいろ楽しいこといっぱいだよー、楽しんでおいでー。」
最後に何かあるか?と聞かれて姉さんと目を通して会話する。ふむふむ。なるほど。よし。
「「新しい世界行ってきます。ママ大好き。」」
笑顔で2人で答えると、紫苑の珍しい笑顔を見て母さん達(薫子さんも)が可愛さにノックアウトされつつも、いってらっしゃいと返事を返してくれた所で僕達は光に包まれっていった。
「最後のは反則だろう。まったくしてやられた。」
「うふふ、流石は私達の子供ね。成長が楽しみだわ。」
光が収まって当たりの様子を確認すると既に家の中にいるみたいだ。ここはリビングかな?皆が座れるテーブルとキッチンはあまり変わってないな。
ソファーの少し離れた所にある四角い薄いのは何だろう。よく見ると見慣れない物がちらほらとある。取り敢えず、家の中の確認から始めるか。
薫子さんは誰かに連絡を取っているみたいだから、姉さんと一緒に見て回ることにしよう。
下の階段と上の階段があるみたい。先に上の方から見ていこう。階段を上がると二つの部屋があった。
1つは和風の部屋で床が畳でできていた、箪笥とちゃぶ台が置いてあって押入れの中には布団が入れてあった。
もう一つの部屋は洋風で床がフローリングでクローゼットとドレッサーが置いてありクイーンサイズのベットが真ん中あって、全体的に白で統一されていた。
それぞれ七畳程の広さがあって申し分なかった。始めて見るものにはそれぞれの名称と使い方が丁寧に書いてあって助かった。
二階の確認が終わると地下に降りて行った。そこには十二畳程の広さがあって様々な楽器が置いてあった。
ここは防音になってるみたいで思う存分音を出していいみたい。これに姉さんがかなり喜んでいた。でも姉さんって楽器弾けたのかな?聞いたことないから初めてのはずなんだけど気のせいかな。
一通り見て回り一階に戻って来たが薫子さんはまだ連絡を取っていた。連絡をしているところを見る限り忙しそうなので放置しておこう。
姉さんは荷物の整理に行ってしまったためやる事が無くなった。暇だなぁ。
少し考えて思い出した。そうだ、外があるんだった。忘れてた。
期待と少しの不安を抱えながら玄関を開けるとそこには夕暮れに染まる住宅街が広がっていた。
沈みかけの太陽とそれに照らされた住宅街が何とも言えない哀愁を漂わせていた。これは絵になるなぁと思いながら住宅街を眺めていると視線を感じて辺りを見回すと帰宅途中の人がこちらを見ていることに気付いた。
歩いていたサラリーマンは啞然とした様子で持っていた携帯を落とし、男子高校生は顔を夕暮れよりも真っ赤に染めて慌てて目をそらし、小学生は顔を手で隠しながらも隙間から覗いていた。
疑問に首を傾げていると、家の中から姉さんの声が聞こえたのでとりあえず戻ることにした。
「紫苑どこにいたの?服も着ないでうろつくのは自分の部屋だけって約束でしょ。」
「えー、めんどくさい。」
「そんなこと言わないの、着せてあげるから我慢して。」
そう紫苑は未だに下着すら身に着けていなかったのである。幸い夕暮れのおかけで細部までは見られなかったが本人は羞恥の欠片もないので裸を見られたことに問題を感じていなかった。
周りの人たちからしたら、中学生ぐらいの真っ白な美少女が玄関から突然全裸で出て来たら驚いて見つめてしまうのも仕方ないと言えた。
そうして2人の前途多難な生活が始まるのであった。
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