第3話

現在の人間は昔に比べてほとんどの何の特徴を持っていない人々が半分の人口を占めている。これは環境が安定したことがもたらした変化の一つだ。


もう半分は何からしらの特徴を持った人々だ。例えば獣の耳があったり、身体の一部が鱗で覆われていたりと、環境の変化に伴ってその特徴は微々たるものになっていった。


しかし、この様な特徴は差別問題として挙げられる代表的なものになってしまった。その人間たちの争いを嫌った精霊達がこの問題を解決するために、各国の代表者を集めて制約を与えた。


それはこれ以上争いを続けるなら環境の調整を止めるというものだった。そうして半ば強引に法を定めることによってこの問題は終結した。



とある会議室に様々な人々が集結していた。


「この集まりも大分長くやってるわよねぇ。一々集まるのもめんどくさいのよねぇ。」


そう言ってため息をついた小女がテーブルの上に項垂れた。


「確かになぁ、まあこれが俺たちの役目の一つだから仕方ないって。」


女の隣に座っている男がだらし無く椅子に座った状態でそう言った。


「報告の義務あり。」


男の隣に座っている男が腕を組んだままそう言った。


「ほっほ、我々が存在するのは原初オリジン様が粗方の環境を整えてくれたおかげじゃからのう、我々が仕事を放棄する事は許されんことじゃ。」


男の隣に座っている爺さんが他の三人を見つめながら注意してそう言った。


彼等には人の名前が無いため周りの人達は青龍、朱雀、玄武、白虎と呼んでいる。


彼等は原初の精霊達が整えた後に生まれた第二世代セカンドで、その仕事は既にある環境の細かな調整と管理のみで大きな力は持っていない。彼等はその第二世代の精霊代表者としてここに集まっていた。精霊達が愚痴を言ってる間に、各国の人間の代表者が集まっていた。


「時間なりましたのでこれより世界安全環境調整会議を始めたいと思います。」


この会議は年に一度の期間で行われるもので世界各国の異常気象の有無や、精霊達の環境調査や状態の報告と対策についてが話し合われている。


それとは別に精霊達は人間達が制約を守っているかの確認も同時にしている。各国にいる精霊により虚偽報告は出来ないのである。


そうして毎年確認を繰り返すことによって世界は平和になっていった。ここ数年は異常気象などもなく会議は滞りなく進んでいった。


「特に緊急な対策は必要な事項は無いということで今年の会議を終了したいのですが、他に何かございますか?」


「今年も原初様は姿を見せなかったのう、この会議に来なくなってもう15年程経ったか。」


「そうだな、まあ今頃世界のどこかをぶらり旅しているんじゃないな。」


「あの方達はとても自由だからねぇ、何をしてるかなんて考えるだけ無駄よ。」


見渡す限り特に無いようなので司会が会議を終了させようとした時、会議室の外がにわかに騒がしくなっていることに気づいた。


「久しぶりにここに来たから迷ちゃった。確かここでよかったはずだよ、ぎりぎりセーフかな?」


「全くお前は目を離すと直ぐに何処かに行く癖を直せ、只得さえ方向音痴なのに。」


そんな話をしながら二人の女性達が会議室に入ってきた。


「あ、あれは誰だ・・・」


「なんと美しい。」


「女神様が降臨なされたわ!」


と、彼女たちを始めて見た人達の反応は男女問わず皆同じで見惚れて呆然としているか、興奮を抑えきれず鼻から幸せの赤い液体を垂れ流していたりと混沌としていた。


「おお、お久しぶりでございます原初様。お会いできるのが待ち遠しいかったですぞ。」


「噂をすればなんとやらだな、丁度あんたらの話をしていたところだ。」


白虎と青龍が嬉しそうに彼女たちのもとに歩み寄って行った。2人の後ろに隠れるように玄武と朱雀もついてきた。


「およ?来ない間に随分と人間が入れ替わったみたいだね。第二世代達は相変わらず変わらないなぁ。恥ずかしがらずにおいでー。」


「いや、だって、その何というか近寄りがたくて。」


「恐れ多く、近寄りがたし。」


そういうや否や二人は隠れるようにして離れていった。


「むー、そんなの私は気にしないんだけどなぁ。」


「牡丹、そろそろというか早く本題にはいれ、私たちは遊びに来たんじゃないんだぞ。」


「分かってるって菫ちゃん、はいはーい、皆さんちゅうもーく。今回は報告とお願いがありまーす。先ずは報告からねー、この度私たちの名前が決まりましたー、いえーい。」


「それとお願いについてはー、私たちの子供たちが高校に通う事になったのでー、くれぐれもちょっかいをかけることだけはやめてねー、私たちはいいけど子供たちは何をするか分からないからそこんとこよろしくー。」


周囲の人たちは全員、時が止まったかのように固まっていた。そして頭が状況を理解したところで皆一様に戸惑いを隠せないでいた。


「えっ、今なんとおっしゃいました?」


「子供たちが高校に通う事にって、子供たち!?」


「彼女たち2人共女性だよな、それなのに子供って・・」


辺りが騒がしくなってきたところで、牡丹の隣にいた女性がやれやれ、といった感じに補足してきた。


「お前は説明を省きすぎだ、まったく。一から説明してたら帰る時間が遅くなるから大事なことだけ。まず、私たちはの名前のことだが子供たちが学校に通うのに名前が無いと何かと不便かと思ってな、性を白雪という。私は菫このぽやぽやしている方が牡丹だ。」


「次に子供たちについては正真正銘私達の子供だから変な気は起こしてくれるなよ、というか子供たちが暴走したら私達でも止められないから注意してくれ。」


「そして最後に通う学校だが、そこはまだ決めかねていてな。さっき丁度紫苑が安定期に入ったと連絡があったからな、せっかくだから紫苑の行きたい所にしようと思う。ゆりは紫苑がいれば何処でもよさそうだしな。」


「ゆりちゃんはしおんちゃん大好きだもんねー。決まり次第また報告しに行くからよろしくねー。じゃ、ばいばーい。」


そう言って牡丹が今日の報告は終わったと言わんばかりに会議室から出ていくのを、菫が慌てて追いかけて出ていった。


会議は終わったはずなのに、今の報告について新たに緊急会議を開いたのは言うまでもなかった。

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