漆黒の襲撃者~決戦!vs異世界百足改良型~

 黒い波。

 それは巨大な黒い津波のようにこちらへ押し寄せてくる。

 その正体は黒い巨大なムカデの群れだった。

 一体が20m前後。それが数百匹の群れを作っている。


 ムカデの群れは俺を取り囲んだ。体を持ち上げ壁のように重なり合いながら周囲を取り囲む。砦からは人形の姿が見えなくなってしまったようだ。フェオから通信が入る。

「少尉殿大丈夫ですか?援護は?」

 やはり焦っている。

「まだ大丈夫だ。心配ない。作戦通り行動しろ。指示を待て」

「了解しました」

 焦って発砲されてはせっかくの準備が水の泡になる。

 巨大ムカデの壁からアルゴルが現れた。

「ハーゲンさんこんばんは」

 どう見ても人間の顔なのだが、報告には環形動物の集合体と記載されていた。ミミズが数百匹集まってできた体なのだろう。ミミズであればムカデの捕食対象だろうにその中で平然としている。

「この度はあなたの乗る鋼鉄人形の心臓をいただきにまいりました。金貨10000枚で如何ですかな?」

「馬鹿にするな。金で譲れるものではない」

「では、この数百匹の巨大ムカデと交換いたしませんか?これは一匹金貨50枚程度の価値がありますよ」

「こんなゲテモノは不要だ。ここからすぐに立ち去れ。そうすれば貴様のやったことは大目に見てやる」

「そういう訳にはいきません。これも仕事ですからね。もう一度言います貴方の人形の心臓を下さい」

「これは皇帝陛下より貸与されたものだ。俺の一存でどうこうできる代物ではない」

「強情ですね。砦の人々がどうなっても知りませんよ。何せ腹を空かせてますからね。砦には2000人くらいいるんでしょ。その人たちが喰われてしまったら、あなたの責任ですよね。ふふふ」

「ふん。持ちこたえて見せるさ。欲しけりゃ俺を殺して奪え」

「ではそうさせていただきます」

 俺は大剣を抜刀しアルゴルを突くのだが奴の姿は消えていた。奴の後ろにいたムカデの頭を潰したのだが、その瞬間そいつは周囲のムカデに食われる。

 俺は振り向き大剣を振り回しながらトラップを仕掛けた場所まで後退する。

 操作パネルにタッチし照明弾を打ち上げる。両肩から垂直に照明弾が上がっていく。周囲は明るく照らされ、砦に向かうムカデの群れが見えたのだが、ムカデの群れは人形に覆いかぶさり何も見えなくなる。

 照明弾が攻撃の合図だ。

 事前に仕掛けておいた爆薬で白い結晶を満載したトラックを爆破し、次いで、城壁よりフェオが放水を始めた。

 トラックの積み荷の白い結晶はうまく広範囲へ四散した。そこへ城壁から放水させる。情報通り巨大ムカデは水を求めトラックの周囲へ集まってきたのだが、白い結晶が連続的に発火を始めた。

 この白い結晶とは金属ナトリウムである。水と反応して高熱を発し、激しく発火する。轟音を響かせながら爆破し、辺り一面に炎が上がり巨大ムカデを燃やしていく。配置していた燃料も次々と燃え上がる。轟音と爆炎に包まれ、俺の立っている場所は火炎地獄と化した。

「うまくいった。炎から逃れたムカデを狙え。各個に射撃開始!」

 城門に配置した装甲車と城壁上の兵士が射撃を開始する。

 ムカデの頭から花火のような火花が飛び散っているのは塔の上からの狙撃だ。焼夷弾を使っている。辺境にはもったいない良い腕をしている。

 俺は大剣を振るい周囲のムカデを切り刻んでいく。

 ある程度片付けたと思ったところで残りのムカデが一斉に俺の方へ向かって来た。

 多少の炎はお構いなく人形に絡みついてくる。

 数匹の巨大ムカデに絡まれ身動きが取れなくなってしまった。

「憎い。人間も獣人も、何故お前たちばかりが良い目を見るのだ」

 不意に操縦席内にアルゴルが現れた。

「私達のような生物であっても神に祝福を受けこの世に生を受けたのだ。何故差別されねばならない」

 アルゴルは人間の姿からミミズの集合体へと変化した。光学的なカモフラージュをかけていたようだ。

 俺は胸のホルスターから拳銃を引き抜き奴の胸と頭へ計6発射撃する。

「そんなものは効きませんよ。ははははは!」

 奴は高笑いしながら俺に抱きついて来た。全長30㎝はありそうな大きいミミズが奴の体から離れ俺の体を這いまわる。

「このままあなたの体を奪って差し上げましょう。苦しいのは一瞬。快楽の中で昇天させてあげますよ」

 奴は俺の口と鼻にまとわりついて来た。体の中へ入ろうとしている。

 俺は操縦席の後ろへ隠していた塩の袋を開け大量の塩を頭から被った。

「ナメクジは塩で溶けるが、ミミズはどうかな」

 更に塩の袋を開け塩を被る。目の前にいた既に人の形をしていないミミズの塊にもぶっかける。

「ぐおおお。何故操縦席にこんなものを備えているんだ。ぐああああ」

 思った通り表皮の弱いミミズは塩をかけると水分を吸い取られ体が小さくなっていく。俺は顔に巻き付いたミミズを剥がし念入りに塩をかけていく。

 ミミズの群れはのたうち回りながら細く小さくなっていき終いには動かなくなった。

 正面のモニターは拳銃弾で穴が開き何も見えない。側面のサブモニターを覗くと城門では数匹のムカデに装甲車が射撃を加えていた。壁上のフェオにムカデが襲い掛かろうとした時、フェオが投げた手榴弾が偶然口に入りムカデの頭を吹き飛ばすのが見えた。フェオはその場に尻餅をつき震えている。

 後は俺の周囲にいる数十匹のムカデを退治したら終わりというところで、蓄積していた霊力が尽き人形は動かなくなった。

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