エピローグ

 俺たちは元の場所へと戻っていた。砦近くの丘陵のふもとである。

 出発してから数時間が経過していたようで、砦はすでに夜間対応となっていた。

 門を開けてくれたのはフェオだった。

「少尉殿。お帰りなさい。お疲れ様でした。演習予定の時間ぴったりのご帰還ご苦労様です」

「ああフェオ。スマンが操縦席を濡らしてしまった。海水だったからな、明日でいいから洗浄しておいてくれ」

「私も濡れちゃったわ。もうどうしてくれるの?」

 フェオはクンクンと俺の匂いを嗅ぐ。

「あ、海の匂いがする。まさかお二人で海水浴にでも行かれましたか?」

「まあな」

「でもこの辺りには海はないし。どこ行ったんですか?」

「お前の知らないところだよ」

「怪しいですね。先生と何かあったとか??」

「フェオ君、追及しないで。私が困っちゃうから」

 更に疑われるようなセリフを吐くリオネ。

「何もなかっただろう」

「あら、ずっと抱いてたくせに。女泣かせね」

 嘘ではないが、これは誤解を招く。

 フェオは俺たちを交互に見つめながら顔を赤くする。

「本当ですか??」

「お前はからかわれているんだ。まだ気づかんのか」

「え?」

「ウフフ。じゃあねフェオ君。私は着替えてすぐ医務室へ行きます。貴方も来るでしょ」

「当然だ」

「じゃあまた」

 リオネはそういって俺の頬にキスする。これでしばらくは俺とリオネの噂が砦中を飛び交うだろう。


 シャワーを浴び着替えてから医務室へ行く。

 テラは健やかな表情で眠っていた。皮膚に見られていた黒い斑点も消えている。

 一足早く来ていたリオネが頷く

「もう大丈夫。あの男が魔石をきちんと破壊してくれたようね」

「そうだな」

 テラの父ランドラーと母リアが俺の手を握り涙を流す。

「ハーゲンさんありがとう。このご恩は一生忘れません」

「ハーゲンさん。いつでも厨房に来てね。何でも好きなもの食べさせてあげるから」

「良かったな。俺はもう休むから」

 ランドラーとリアが深々と礼をする。

 リオネは手を振りながらウインクをするのだが、これは後で部屋に来いという意味だろう。

 部屋へ帰る途中に夜空の星を見上げる。

 俺たちが赴き戦った星がこのどこかにあるのだろうか。

 きっとあるのだろう。

 宇宙は無限で星々も無限だ。

 宇宙軍に入って宇宙を飛び交うのも一興だと思う。

 リオネの誘いは無視することにした。後で色々イチャモンをつけてくるのだろうが放置決定だ。彼女のおかげで昔の恋人ネーゼの事を思い出す。もう忘れたつもりだったのだが忘れることなどできるはずがない。若き日の満ち足りた頃を思い浮かべながらベッドに入って眠りにつく。明朝この幸福感は全て消え失せていることは十分承知しているのだが、今はこの夢の中に浸っていたかった。

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