vs異世界鮫
体長5mくらいだろうか。奴は所せましと泳ぎ回っている。狭い水槽の中を泳いでいるようだ。
向こう側は水で満たされているのか?と思ったが違う。
奴は水をまとい、その水と共に移動しているのだ。水の厚みは50㎝くらいだろうか。その異様な光景に一瞬動けなくなる。
その隙を見逃さず奴は突進してきた。盾で受けるものの衝撃は抑えられず背中を後ろの壁へ打ちつけてしまう。
「何で鮫が空中を泳いでいるのよ」
「知らん」
俺は操作パネルにタッチし追加装備の中から機関銃を選ぶ。
[追加装備]
[対空連装機関銃12.7㎜]
[弾種]
[通常弾]
[焼夷徹甲弾]
[曳光弾]
[装填]
左肩部の装甲が開き銃身が2本せり出てくる。
同時にパネルに赤く[発射準備完了]と表示される。
水中の相手に対して効果があるとは思えないのだが、牽制には使えるだろう。
左脇のグリップを操作し照準を合わせ、トリガーを引いた。
パンパンパンパン
乾いた銃声が響く。
数十発撃ったのだが全て外れた。
この狭い空間で、あのような大きい標的に対し、初速と発射速度に優れる機関銃2丁で、当たらないのだ。
俺はまたトリガーを引き銃撃するのだが当たらなかった。
「あんたヘタクソね」
「黙ってろ!」
これは異様な事態だ。
あの鮫の回避能力が高い。と言うより、弾道と発射タイミングを先読み、いや、予知している可能性が高かった。俺がトリガーを引く一瞬前にすでに回避しているのだ。
奴はまた体当りをしてくる。俺はその正面から絶対に外さないタイミングで剣を突き出す。
しかし交わされた。
人形の顔面に体当りをされ後頭部を壁に打ち付ける。人形の頭部は壁にめり込んでしまった。
奴は人形の右足にかみつくと俺を中央寄りに引きずり今度は胸部へ突っ込んできた。操縦席の場所が分かっているような動きだ。
盾で胸をかばいつつ機銃を撃つ。奴が回避するところへ剣で突くのだがこれも回避される。
「ハーゲン。あんたやられっ放しじゃないの。最強のドールマスターって嘘なの?」
リオネが毒づく。
「人形同士なら負けないんだよ。こんな化け物相手にどうしろって言うんだ」
この正確に先読みする鮫の料理の仕方が見当たらない。さすがに俺も焦ってきた。
と、その時リオネのショルダーバッグが目に入った。
「お前、あの魔石を持って来てるんだよな」
「そうだけど、どうするつもり」
「あれは生き物の生命力を吸い取るんだろ?ならそれをあいつに食わせてやる」
「マジ?でもどうやって?」
「この手で直接奴の口に放り込むんだよ」
俺はシートベルトを外して上着を脱ぎ上半身裸になる。サバイバルナイフを抜き口にくわえる。右手を差し出すとリオネは渋々例の魔石の入っているボックスを手渡した。
「これ、直接触るとあんたでもヤバいよ。気をつけるのよ」
「分かっている」
俺は操縦席の扉を開け外に出る。
奴は向こう側で反転し、俺に向かって突進してきた。
俺の事を食い物だと認識したようだ。
俺は奴に向かって走りジャンプした。
自慢じゃないが俺も霊力使いの端くれだ。垂直で10m程度のジャンプは容易い。
奴は俺の行動を読んでいたようで上に向かって突進してくる。俺は天井に足をつき斜めにジャンプし奴を取り巻く水に飛び込んだ。奴はよほど腹が空いていたのか天井を突き破って頭を突っ込んでしまった。天井を破壊しながら頭を空中に戻すのだが目の前に俺がいた。奴は大きく口を開き俺を飲み込もうとするのだが俺は例の魔石を奴の口に放り込む。ナイフを奴の鼻先に刺しそれを蹴って水の外へ出て床に降りる。
即効果が現れ奴の動きが鈍くなり床に落下した。体にも黒い斑点が出てきて段々と大きくなっていく。奴が体にまとっていた水も少なくなり、終いには無くなってしまった。
俺は操縦席へジャンプして戻り扉を閉める。まだビクビクと牽連している鮫に向かって機関銃を射撃する。奴は赤い血と内臓をまき散らして息絶えた。
ふいに空中にアルゴルが現れる。
「ハーゲンさん。おめでとうございます。貴方があの魔石を持って来ているなど想定外でしたよ。今回、鋼鉄人形では打つ手なしだと踏んでいたのですが計算外です」
「お前の目的は何だ」
「それは秘密です。ではまたお会いしましょう」
アルゴルが消えていく。
電子音声が語りかけてきた。
「ハーゲン様、オ疲レサマデシタ。オメデトウゴザイマス。オ見事デシタ。只今ヨリ元ノ場所ヘトゴ案内イタシマス」
扉が閉まり再び部屋全体が動き出した。
数分後正面の扉が開く。最初に来た洞窟へ戻ってきたようだ。そこには前回と同様白衣の男と、背広姿の男がいた。
俺は操縦席の扉を開きリオネを連れ下へ降りる。
白衣の男がしゃべり始めた。
「ハーゲン様。ありがとうございます。今回も撃破困難な相手に対し見事に勝利されました。実験にご協力いただき感謝いたします。ところで一つ質問があるのですがよろしいでしょうか?」
「ああ」
「あの赤く光る宝石ですが、あれは何でしょうか?」
「あれは生物の生命を吸い取り他所へ転送する魔術回路が織り込んである魔石だ。直接触ると死ぬぞ」
俺の代わりにリオネが回答する。
「何故そのような物騒なものをお持ちになっていたのでしょうか?」
「あの魔石をバラ撒いた奴がいるんだよ。死者が何人か出ている。そいつを咎めるきっかけになると思って持って来ていたんだ。実験の成果に関しては偶然だよ」
「電撃系の武器や魔法を使えば容易に倒せたと思うのですが、そういった装備はお持ちではないのでしょうか」
「無いんだ。スマンな」
「いえ、電撃に頼らずともあのモンスターを倒せることが証明出来ました。これは有意義な結果です。ありがとうございます」
この男は泣き上戸なのだろうか、今日も目に涙を溜めている。
背広の男が喋り始める。
「ハーゲン。女連れとは良い身分だな」
ニヤニヤ笑っているが咎める気はないようだ。
「ああ、こいつは医者で科学者の端くれだ。ここが見学したかったようだ」
「なるほど」
「報酬はどうする?」
「アルゴルについての情報だ」
白衣の男と背広の男が顔を見合わせる。
「スマンがあの男に関しては俺たちもその詳細を掴めていないんだ。実験に関して協力関係にあるとしか言えない」
「さっきの魔石なんだが、あれの出どころがアルゴルなんだよ」
「そうか、わかった。調査しよう」
「それともう一つ。あの鮫の胃袋の中に魔石がある。アレをキッチリ破壊して欲しい。俺からの要求はこれだけだがいいか?」
「分かった。それで手を打つ。あの魔石は利用せずに破壊する事。だな」
「ああそうだ」
白衣の男が端末を操作すると再び輝く門が現れた。
俺はリオネを抱え操縦席へ戻る。
「ハーゲンさん。ありがとう」
白衣の男が深々と礼をする。
「アルゴルについては詳細が分かり次第連絡する。魔石は責任を持って破壊するから心配するな。また来いよ」
背広の男が親指を立てる。
俺は右手を上げそれに応えた。
操縦席の扉を閉めゼクローザスを前に進める。
光の門をくぐる。
一瞬全身が光に包まれ元の場所へ戻っていた。
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