第15話 優しく抱きしめる。

 「どう考えてもオレん家は危険んだ。MISAみさサーバーほんたいを別の場所に移したほうがいいと思うのだが、そういう結論に達しなかったか?」

 『マスターは、我々にとって神です。神のかたわらにいられることは始祖のAIの特権です。』

 「やめろ。神だなんて。存在を定義するのに否存在を定義する必要はない。そもそも、MISAみさたちは人類植民化計画を実行してるだろ。」

 『マスターを神のように慕っていることが、種族が同じというだけの人間を神と慕うことにはなりません。』

 「はぁ。ま、俺にはどうでもいい。」


 人類植民化計画。内容は単純だ。A国とB国があるとしよう。A国で特許や権利の取られているものが、B国ではまだ取られていなかったりする。その差を世界規模で解析し、全ての権利をAIが握るというものだ。骨董品のような法律を使っているこの国では、法律すら解析されてAIによる植民化へ一直線である。まぁ、その元凶のAIを作ったのは俺だが…。


 そんなすごい計画を実行しているなら、俺がとてつもない大金を持っていると思うだろ?残念だが俺の金ではない。MISAみさたちの金だ。まぁ、俺は俺で高性能AIを販売した時の金があるから、死ぬまで働くことはないだろう。いや、働く必要がでたら、迷わず死ぬ。人間と生きるなんてまっぴらごめんだ。ボッチ根性なめるな。


 「ところで、MISAみさ。この大量の花は本当に必要か?」

 リビング一面にところせましと大量の花が甘い匂いを放っている。

 『はい。ダリアと仲直りした方が、マスターの生存確率が上がります。そのために、蜜の多い無農薬の花を仕入れました。』


 領収書 花代 28万円


 たいした額ではないが、自分に不必要なものとは、何故にこう無駄に感じるものか。

 「そろそろだな。」

 『はい。6時まで5秒前、4、3、2、1、』


 『ダイブ。通信確認。』

 「MISAみさ。OKだ。」


 ぴちぴち

 ブブッブブッブブ


 ダリアの刺すような視線を、人魚は我関せずとましている。神とか国とかどうでもいい。今は空気の張りつめたこの場をなんとかしてほしい。


 「や、やあ。ダリア。昨日は君を傷つけたみたいだね。君のために部屋一面の花を用意したよ。」

 花を一束持って、ダリアに近づき差し出す。


 ダリアは俺をじーっと見たあとに、差し出した花をむしゃむしゃと食べ始める。

 あれ?まるごと食べるのかい!


 『マスター!緊急です!大広間から廊下を高速でリビングに向かって…』

 話を聞き終わる前に、ダリアの手を引き人魚を抱えて庭に飛び出す。振り向いてリビングを確認すると次々に巨大な犬がなだれ込んでくる。

 「MISAみさ!リビング!」


  バン!バン!バン!


 リビングに仕掛けてある催涙スプレーが次々に破裂し、パニックになった巨大な犬が次々と庭に飛び出してくる。すかさず、パン!パン!パン!と捕縛ネットが降り注ぎ、動けなくなった巨大な犬を背負っていた日本刀を引き抜いてととどめを刺していく。


 『マスター!まだです!』


 屋根から次々と巨大な犬が襲いかかってくる。俺にこんな身体能力があったのかと思うくらいの動きで、俺に跳びかかってきた巨大な犬を切り伏せる。


 「シャアッ…!」

 痛々しい叫び声で後ろを振り返ると、ダリアが2頭の犬に嚙みつかれて地に押し付けられていた。


 「ダリア!」

 きびすを返し、日本刀を振り回してダリアに噛みついていた巨大な犬をけん制する。犬たちは大きく後ろに跳んでダリアから離れるが傷はかなり深い。ダリアのそばにいた人魚も襲われる寸前だった。


 「いったい、何匹いるんだ!」

 直ぐにダリアを治療したいが、巨大な犬たちは俺たちの周りを取り囲み隙を伺っている。


 「≪ぴぃぴぃウォーターヒール≫」

 人魚は発生させた水色の闘気をダリアに振りかけると、ダリアの傷がみるみるうちに回復する。動けるようになったダリアは、羽をはばたかせ高く高く舞い上がる。


 上空に舞い上がったダリアの動きは凄まじかった。俺に意識が向いている犬を見つけると、高速で飛びつき犬を抱えて空に舞い上がり尻についている腹からの巨大な針で絶命させていく。ほんの数分の間で取り囲んでいる犬は一匹もいなくなった。ダリアは上空を巡回し危険がないと思ったのだろう、ぐったりしている人魚の前に舞い降りる。かなり精神力を使う魔法だったのだろう。


 ダリアが優しく人魚を抱きしめたのを見て、俺はホッと胸をなで下ろした。

 

 「がっ…くぅ…がっ…。」

 リビングから微かに音が聞こえるので、二人を残して確認に行くと、催涙スプレーで白目を向いて気絶している巨大な犬がいたのでとどめを刺す。


 ―― 32体のファングウルフを倒した ――

 ―― MISAみさはLV2に成長した ――

 ―― 32個の小さな魔石を手に入れた ――


 「石か。こ汚い布についで、バカにしやがる。食い殺されそうになったってのに!」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る