第4話 声を殺してうずくまる。

 コレ・・が始まって、数日だが物騒な家になったもんだ…。


 「ボウガンよし。日本刀よし。サバイバルナイフよし。斧よし。ガソリンよし。火炎放射器もネットで購入して明日には届く。」


 昨日、でかい蛇から出たタイツスーツは、いちを着ている。ナイフを軽く突きたてて見たが刺さらない優れものだった。それに類することだが、捨ててしまった人参やこ汚い布にも意味があったのかもしれない。とりあえず、蜂蜜は台所にしまってあるから良しとしよう。


 「MISAみさ。6時になったら音楽を流して音の反響を確認しろ。その他の支持は昨日伝えた通りだ。」

 『マスター。了解しました。6時まで5秒前、4、3、2、1、』


 「音楽は…若干、ボリュウームが低いみたいだが聞こえている。完全に別空間というわけじゃないのか。とりあえず、害獣を捜索だ。」


 「キッチン、異常なし。リビング、異常なし。廊下、異常なし。玄関、異常なし。外も見てみるか。」


 玄関から外に出た時だった。ゾクッと背筋に悪寒が走る。


 ベキベキッ!ベキベキッベキベキッ!


 車庫の方から鈍い音が聞こえてくる。急激にきもが冷える。恐る恐る車庫の方に近づいていく。家の角から車庫を覗くと…。


 重量で車庫を押し潰すほどの巨大な生物が、鎮座していた。


 思考が止まる。そして急激に恐怖が支配する。死、死、死、死、死、死ぬ、死ぬ、死ぬ…なんで、音楽流せなんて命令しちゃったんだ!!!頼むうごくな!頼む気づくな!


 ゆっくりと、ゆっくりと、後ずさる、呼吸する音すら気づかれるのではないかと走り出したいほどの恐怖を抑えて、ゆっくりと、ゆっくりと、後ずさる。

 音を出さないように薄く薄く息を殺して酸素が足りずに呼吸がくるしい、ド!ド!ド!と心臓の音がうるさい。この音が伝わるのでないだろうか?やっと、やっとのことで1m後ずさる。


 玄関に向きを変えて、ゆっくりと、ゆっくりと移動する。何十分たっただろう、玄関までたどり着いてもまだ、服の擦れる音さえ出さないように、ゆっくりと、ゆっくりと移動する。


 なんなんだあれ!


 巨大なトカゲのような尾、頭には角があり、体を覆う鱗は斧で傷付けられるのかも怪しい。


 なんなんだあれ!


 廊下にあるトイレに入り、息を殺してうずくまる。


 震える体を両腕でかかえるようにして抑える。そして突然に…


 ジャジャジャジャーン!!!!


 穏やかな曲調から、過激な曲調に変更される。


 MISAみさ!昨日した支持か!やめて!やめてくれ!奴を刺激するな!くそ!伝える方法がない!くそ!くそ!


 「ギヤヤヤヤヤヤァァァァァァァァアアアアオオオォォォォ!!!!」


 ズド――――――ン!


 トイレが倒れたかと錯覚するほどの衝撃が家を伝う。その衝撃とともに音がピタリと止まり、ガラガラと壁の崩れる音と巨大な生物が歩き回る音が聞こえる。


 ガタガタガタガタ…ガタガタガタガタ…


 何時間、何十時間、うずくまっていただろう。その空間は唐突に破られる。


 ―― グランドドラゴンの討伐に失敗した ――


 てんてろりん♪てんてろりん♪


 びくうぅぅぅぅぅっ!!!


 し、心臓が止まるかと思った。俺の携帯が鳴っている。発信者はMISAみさ


 「はぁ、はぁ、た、助かった…のか?」


 ピッ


 「MISAみさ?」

 『マスター。午前7時にマスター。の回線復帰を確認しました。命令を変更した点が1点あります。』

 「あ、ああ。」

 『続けます。音楽の反響を確認したところ倉庫で大幅な反響異常がありましたので、命令通り第二フェーズの音楽による攻撃を行いましたところ、家の半分が反響異常におちいったため、マスターの命令を変更し音楽を停止しました。』

 「グッジョブだ!グッジョブだ!!!!MISAみさ!」


 俺は人生で初めて、機械を褒めたかもしれない。たとえ人間並みに判断する心があっても、俺がそれを作ったとしても、機械は機械だ。今も俺はMISAみさを機械にしか思っていない。

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