足らざる者の足掻き



 他者の強きを知ることは己の弱きを知ることである。

 己の弱きを知ることは他者の強きを知ることである。

 強弱相対、常に高みを目指してこそ武の本道なり。

 

              ――とある武闘書の一節




 日が昇り、朝が来て、目を覚ます。

 それは繰り返される毎日のこと。日常という巡回であり、けれど常に同じとも限らない一日のはじまり。


 旅をしていれば寝床は違うし、ベッドのシーツすら違う。朝のにおいは、どこでも似たようなものだが。

 それと。


「あー、ねみ……」

「よし、起きたな。じゃあ鍛錬いこうか」

「えぇ……」


 毎朝の鍛錬を習慣としている男の行動は、いつでもどこでも変わらない。

 薄く目を開ければ、質素な宿の借り部屋とリオトの姿が見える。


 リオトは既に準備万端――いや、というか既に外に出てひとしきりの鍛錬を終えている模様。休憩と水分補給ついでに、もう一度部屋に戻り、シノギを起こしたらしい。


 ぼんやりと半分寝ぼけた頭で、シノギはそこまで把握する。

 けれどだからそれで、なんでこっちまで起こすのだろうか。不思議そうな顔をしていると、リオトが仕方のない子供を見るような目つきになる。


「君が鍛錬に付き合うって言ったんだろうに。ほら、起きて」

「あー。あっ、あぁ?」


 そんなことを、言ったような。言っていないような。

 記憶を手繰りよせようとすると、眠気が増して、なぜ思い出す必要性があるのかという命題にぶちあたる。

 なにはともあれ、今、シノギの求めているものはひつだけだった。


「あと五分……」

「わかった、五秒だけ待つよ」


 五秒後、布団を剥がされ無理やり叩き起こされることとなった。



    ◇



 ことのはじまりは毎朝鍛錬を続けるリオトに、ふとシノギが不用意な一言を漏らしたことにある。


「おれも少しばっか付き合ってみようねェ」

「おお、それはいいな。歓迎するぞ。じゃあさっそく明日起こすからな!」


 思った以上に乗り気で勢いよく、なによりも嬉しそうにリオトが笑うものだから、シノギは押し切られてしまったのだった。


 いや、リオトとベルと旅するようになってから危機感を抱いたのは事実だ。戦力において不足で経験もまた足りず、もしや足手まといになっていないかと不安になることは度々ある。


 だから、ふと、そんなことを口走っていたのだ。


 強い彼の毎日やっている鍛錬というのは気になるし、それで少しでも二人に追いつけるというのなら、試してみるのもありではないか。

 割と殊勝な発想ではあったが、しかしそれと朝の眠気は別である。


「なあ、リオト……ねむいんだが」

「そうか。体を動かせば紛れるぞ」

「あんた割と脳筋だよな……」


 外に出てみればまだ朝早いためにひと気はなく、静まり返って肌寒い。

 どうにも、元気な彼とは馴染み合わない早朝の空気であるのに、なんでこんな溌剌としてるんだ、この勇者は。


 宿の裏手にある小さな広場の利用は、昨日の内に了承を得ている。あまり広いとは言えないが、軽い運動ならば問題ないだろう。

 少なくとも軽い運動程度で済ませようという、イマイチ気だるげなシノギである。

 そんな態度にもリオトは笑みを崩さず、ひとつ頷く。


「じゃあわかった。最初だしな、まずはストレッチと軽い動作の確認とか、疲れない程度のことにしようか」

「ん、わりぃな」


 ふわぁ、と欠伸をかみ殺すシノギ。

 そのまますぐにとりあえずリオトのお勧めのストレッチをはじめる。ぐいーと手足の筋を伸ばし、身体を温める。柔らかにほぐす。

 しながら、口での説明。リオトは師事するように言葉を並べる。


「ただし言っておくがシノギ、鍛錬っていうのは毎日毎日欠かさずでないと意味がない。付き合うと言った以上は、付き合ってもらうからな。少しずつ鍛錬の内容は増やしていくぞ」

「あんた、おれの師匠かよ……」

「なんだ、シノギ、師がいたのか」

「……いちおうな」


 心なし歯切れが悪い気もするので、追求はしない。


「そうか。じゃあ基本的なことは大丈夫そうかな。だったら少し実用的なことを教えるよ。俺が経験して思ったこととか、こうしたほうがいいと思ったことを、共有しておこう」

「そりゃ中々に面白そうじゃねェの」


 百戦錬磨の勇者の経験則を彼自らの口から語ってもらうというのは、だいぶ貴重なのではないか。


 とか思っていたら次は素振り百回だと言い渡される。

 面白みのない鍛錬の基礎に、すこし拍子抜けの心地だ。


 それでも基礎が大事なのはわかっているし、リオトを見て改めてわからされたことでもある。そしてこだわれば素振りは刀剣使いにおける基礎にして最重要の鍛錬である。


 魔刀の一本を抜き、ブレぬように真っ直ぐになるように刃を振るう。

 それは風の隙間を縫うような、刃の道を作るような、直線を意識しての素振り。延々と、ただひたすらにそれを反復する。


 リオトも隣で空を斬り裂きながら――ほとんど風切音がしない。刃が風の合間を裂いている。馬鹿げたほどに精密な斬撃――口では余裕そうに講釈を。


「そうだな、たとえば、そう、武器は片手でも戦えるようにしておいたほうがいいぞ」

「あん? なん、で、だ?」


 シノギは意識を集中させねば綺麗な斬撃が維持できない。少し相槌が雑になる。


「一応、右手でも左手でも剣を振るえないとな。戦いの最中、どちらかが使い物にならなくなっても、諦めないように。両手が駄目なら足で、それも駄目なら噛みついてやれ。戦いってのは、生き残るのが肝要だ」

「おっ、おぅ」


 僅かにどもる。それが刀に伝わる。刀尖が歪む。

 振るう刃は実に素直に担い手の心を反映するもの。だからこそ動揺せずにあることが大事で、同時に動揺しても大丈夫なように身体に動作を覚えこませる。

 正しい素振りは斬撃の基準となり基軸となる。

 少しでもブレた以上、回数には含めない。あくまで正しい素振りを百回だ。


「自分の不足を自覚するべきだ。なにができてなにができないのか、その把握がいる。できないことがわかれば、じゃあそういう鍛錬をしようってなるだろ? それが重要だ。なにが必要か考えて、経験して、補う鍛錬を繰り返す。そうして弱点になるようなものを潰しておけば、生存率はぐっと上がるぞ」

「生存、率……」


 それは大層、重要なことだ。

 シノギが死ねば、それでふたりも死んでしまう。そういう呪い。つまりシノギの雑魚さが、強者たるふたりの足を引っ張るのだ。


 なんだかんだ言っても――弱体化していても、勇者と魔王だ。郵便屋なんぞよりも圧倒的に強く、経験も豊富で、知識も深い。

 現代知識で知ったかぶりはできるものの、そんなものは座学と旅中で学んだ些細なもの。彼らの頭の回転があってこそ、拙い説明で理解してもらえているだけだ。


「しゃー、ねェっ、がんばる、かァ! っと、はい百回!」

「じゃあ三分休憩のあと素振り百回九セット終えたら、次は片手での素振りを両手で百回ずつ五セットで」

「辛いわ!」


 シノギの悲鳴も聞いちゃいない。


「あと武器なしでの戦い方も教えようと思うけど、素手の格闘はどうなの、シノギ」

「そこそこ……だァ」

「そっか。まあ、今日は素振りを中心にしていこう。それならあんまり疲れないでしょ」

「いや、めっちゃ疲れるけどね! 神経すり減ってヤバイけどね!」


 やるけどさ!

 ヤケッパチのような叫びに嘘はなく、その日はそのまま午前中ずっと素振りを続けるのであった。


「ていうかいつもはこんなに長くやってねェだろ!」

「ごめん、楽しくって時間配分忘れてた」



    ◇



 今日は丸一日仕事も用事もなくて、暇を持て余す日であった。

 そのため、昼食の席でリオトはこう提案した。


「せっかくだから午後も鍛錬をしよう」


 ものすっごく渋い顔になるシノギであるが、否というのも葛藤に値する。というかリオトのこれは圧倒的な善意であり、笑顔で曇りの一点もなくて、やはり断りづらい。


 しかも若干、楽し気なのがなお始末に悪い。

 シノギとふたりで鍛錬をできることを、リオトは楽しんでいるのだ。誘い口調はまるで遊びに誘う子供のそれで、輝く瞳はもっと遊ぼうと笑う子供のそれである。


 見かねて――もしかしたら仲間外れを嫌ってか――ベルが口をはさむ。


「では、わしと座学ではどうじゃ。それならまあ、楽じゃろ」


 選択肢が辛いものと物凄く辛いものの場合、多くの人間は前者を選ぶだろう。シノギもそうだった。

 観念して頷けば、さっさと昼食を平らげて、三人は部屋に戻る。


 すぐに机と椅子を動かして、シノギとリオトは座る。いちおう、いらない紙片を用意してペンも『クシゲ』から取り出す。机に並べる。簡易的な学習所のような形を整える。

 まずは形から入るべきとは、ベルの意見だった。彼女もまた雰囲気つくりなのかなんなのか、どこからともなく取り出した伊達メガネを着用。ふふん、となぜか偉そうだった。


 さて授業のはじまり。

 イの一番、開口一番、ベルは辛辣な現実を告げる。


「とりあえずシノギ、おぬしの魔力量で術は無理じゃ」

「知ってるよ、何遍も言われたぜ」


 肩を竦めて、不良生徒は首肯した。彼は先天的に魔力量の少ない性質であった。

 リオトも薄々勘付いてはいたこと。

 だがふたりの理解よりも、魔王の指摘は一歩深い。


「おそらく先天的に魔力が少ないのじゃろうが、それと同時に常に魔刀に魔力を食わせておるせいもあるぞ」

「あ? どういう意味でい」

「魔刀、妖刀の類は常に担い手の魔力を食らう性質があるでな。その上で発動に魔力を要求するわけじゃが……おぬしの魔力量では、せいぜいが二本程度しか同時に行使できまい?」

「よくわかってんじゃねぇか。たしかに、おれァ魔刀を同時に使えるのは二本だけだ。それでもだいぶ辛いでほとんどやんねェけどな」


 シノギが魔刀を二種類以上同時に行使しないわけはそれにある。

 三本以上は単純に使えない。二本同時も、かろうじて使えるが、一気に魔力をもっていかれて疲労が大きい。それでケリがつくならまだしも、戦いが続いた場合はおおよそ敗北すると思われる諸刃の剣だ。


 だからこそ、シノギは一度に一本の魔刀でしか戦わないことにしている。次の魔刀を行使するならば納刀して、二本目を抜刀する。


「やはりか。まあ今更、魔刀を捨ててまで術を覚えるなぞ本末転倒、そのままでよい。じゃが、わしが魔刀の同時行使――そうじゃな、二本同時行使を標準に、最大三から四本程度まで増やしてやろう」

「そりゃすげぇ。魔力ってそんなに簡単に増えんのかよ」

「いや? 魔力量の上昇は微々たるものじゃ。それよりも重要なのは魔力の扱い方じゃな」

「扱い? また繊細そうな話だぜ」

「そうかの? では後に回してもよいぞ。先に魔力量の上昇も考えてやろう。そっちのほうが単純でわかりやすかろう。ただし即効性はないぞ。無論して損はないがな」


 生徒の意向によって柔軟に導く方向を変える。やりやすい方法や順序は人によりけりだろう。


「おぬしに関しては単純じゃ。シノギ、おぬし、寝る時も魔刀を抱えておるじゃろ」

「……あぁ。心配性でね」


 なんだろう、別に疚しいことでもないのに咎められた心地だ。

 ばっさりとベルは切って捨てる。


「それ、やめよ」

「は? なんで」

「常に魔力を食われておると言うたじゃろ。それが負荷となっておぬしの魔力器官が痛んでおる。とはいえ、魔力器官は筋肉に似た性質をもつ。負荷を与えたのち、休ませることで伸びる。ゆえ、おぬしに必要なのは休息じゃよ」


 常に魔刀により負荷は加わっていて、だからあとは休めと。それだけで魔力の、その器が広がる。


「特に睡眠時は魔力の回復が最も著しいでの。武器持たず寝るのは不安かもしれんが、なに、おぬしは誰と同室じゃ?」


 その言葉に視線を感じれば、リオトが万事任せろといった顔で頷いていた。


「……信用してねぇわけじゃねぇぞ。習慣だっただけだ」

「では?」

「わかったよ、寝る時ゃ魔刀を外せばいんだろ」

「うむ、それだけでも多少は魔力が伸びるじゃろ。まあちと長い目で見んといかんがな」


 それよりも、とベルは思う。

 これまで一緒に旅してきて、今日こうして話し合ってみて、ベルは兎角ひとつ気がかりができていた。これを捨て置くと先に進めない、重要なことだ。


「しかし、おぬし、どうにも魔術について苦手意識があるじゃろ。魔力が少ない、魔術が使えん、よくわからんとな」

「そりゃ、まあ」

「であろう。じゃが魔力を知れ。魔力という力の流れがおぬしにも存在し、それを知らず使っていることを自覚せよ」


 わからないことから逃げるな、立ち向かえ。苦手だからと目を逸らすな、前を向け。

 そうでないといつまで経っても苦手意識が消えず、知ろうとせず、放置して無知となって足を掬われる。 


「よし、先は迂回しようと思うたが、やはり今日は魔力制御の基礎についての座学としよう」

「制御ね、魔力も実感しねェおれができんのかよ」

「じゃからまず実感するところからじゃな。

 ともかく魔力を知ることがおぬしにはまず必要と、わしは思う。知らぬものは恐ろしく、複雑に見え、己には理解不能と思えてしまうでな。まずは知ること、それからじゃな」

「っても、目に見えないもんを知るってなんだよ」

「音は目に見えぬが耳で感じるじゃろ。匂いは見えぬし聞こえぬが鼻でわかるじゃろ。それと同じく、別の感覚を磨けばよい」


 目に見えなければ存在せず、価値もないなどと、そんなわけがない。

 目で見えないなら耳で聞け。耳で聞けないなら鼻で嗅げ。鼻で嗅げないならその手で触れてみろ。人の感覚はひとつではなく、そして、五つでも、ない。

 魔術師は第六の感覚でもって魔力を知覚する。


「魔力制御の前提に、魔力の知覚が必要でな。まず己に流れる魔力を知ることが一歩目じゃ」

「……」


 イマイチわかりづらそうに、シノギは自分の手のひらを見つめる。どうにも、まだピンとこない。

 ベルは自らの腹に手をあてて、目を閉じる。


「呼吸によって魔力が循環していることを理解し、その循環を把握しろ」

「循環ね」

「うむ、常に循環しておるよ。わしもおぬしも等しくな。それを知り、他の知覚をできるだけ減らし、強く意識しておるとな、ふと気づく。外在魔力マナを取り込んで、内在魔力オドと変換する感覚というやつがの」

「話トんでない?

「いや? 知ろうとして探し出せばおのずと知れると、ただそれだけの話じゃろ」

「自覚しろってことかい」

「うむ。こうして細い魔力を知覚しようと感覚を凝らせば、それが魔力制御の練習にもなる。魔力制御技術というのは地道な鍛錬あるのみじゃからな。鍛錬の一環としてこれは有用じゃよ」


 魔力を知れと、言葉通りだ。


「というわけで、やってみよ」

「え、は?」

「やってみよ」


 びしりと指を指され、断言されてしまう。

 シノギは困ってしまって、とりあえず具体的なことを問う。


「やってみろったってな、なにからはじめればいいんだよ」

「まずは魔力循環の把握じゃな。目を閉じて、深呼吸せよ」

「おっ、おぉ」


 言われて目を瞑る。視覚が閉ざされ、ベルの声だけが脳裏に響く。

 腹の中のものを全て外へと出すつもりで息を吐き、限界まで腹をへこませる。


「吸気の際に体内に入ってくるものを意識するのじゃ。それは空気じゃが、外在魔力マナも含まれておる。そう確信し、そう己に言い聞かせ、腹にまで飲み込んだそれをイメージせよ」


 すぐに息を吸い込む。

 腹を膨らませ、全身に力を満たしていくように、外からなにかを取り込んでいく。


「そして腹から丹田たんでんに至り、魔力が瞬時に変換される。内在魔力オドと変わり、己の血肉となったのじゃ」


 深呼吸、深呼吸。

 意識し繰り返す。イメージして繰り返す。

 繰り返す……。


「うん、わからん!」

「なぜじゃ」

「んな即座にマスターできるかよ、まだ一回目じゃん」

「えー、わしすぐできたしー」

「ちくしょう、これだから天才は嫌なんだ! 凡人の身になれや!」


 割と心底からの叫びにベルは腕を組む。ちょっとまずいこと言ったかなぁ、と苦笑してしまう。


「むぅ。ではこれ一呼吸を一度とし、日に百はしておけ。さすればひと月ほどでなんとなく掴めるようになるじゃろ」

「なんか凄い放り出された感!」

「戯け。つきっきりでなんとかなる種目でもないじゃろ。ともかく、掴めたらまたわしに言え、次のステップを考えるでな」

「はいはい」


 やれやれ、これでシノギはリオトとの鍛錬に加えて自主練で魔力知覚の行を毎日することになる。その上、ふたりには隠れて続けているトレーニングだって欠かすわけにもいかない。


 けっこう大変そうで、今から若干憂鬱である。とはいえ、強くなるためには、足手まといにならずにいられるようにするためには、これくらいは当たり前のこと。

 がんばろう。それが弱者にできる最大にして最低限の足掻きであり。二人と旅するための義務であろう。


「さて」


 気を入れるシノギの横で、ふと不意に話の終わりをみてとり、横のリオトが立ち上がる。

 ずっとベルの番だと黙っていたのだけど、間隙を見計らうことにおいて遅れをとる彼ではない。


「シノギ」

「なっ、なんでい」


 なぜだろう。なにかとても嫌な予感がする。

 リオトは輝かしいほどの笑みであり、不吉などそこから読み取れない。なのに、だからこそ、戦慄してしまう。


「今日の分の百呼吸が終わった後なんだけどな」

「おう」

「さきほど魔刀を二本扱うという話がでたな」

「あっ、ああ。だからなんでい」

「魔刀二本を同時に扱えればだいぶ戦略の幅は広がる。俺も賛成する。けどな魔刀は刀だ、ただ振り回せばいいわけじゃない。術理があって、流派がある。だろう?」

「そう、だな。まあそうだ」


 うん、とリオトは深くうなずく。大事なことを理解してくれてうれしいとばかりに。

 そして、笑みを深めて真っ直ぐシノギを見遣る。


「要するに」

「要するに?」

「今から二刀流も練習しはじめようか!」

「早速だな! もう嫌だよ、休ませろ!」


 性急すぎるわ。勢いよすぎるわ。やめてー。

 一切聞いちゃいない。


「二刀の極意は武具を自分の体の一部として馴染ませることにあるぞ!」

「聞け! というか無理だろ、それ!」

「無理と思うから無理なんだ、やれると思ってやればできる!」

「前向きに名言っぽく言えば頷くと思うなよ! そういうのを人は無茶ぶりって言うんだよ!」

「無茶してなんぼだろ! 無茶もせずに強くなれるか!」

「畜生! あんたに言われると反論できねェ!」

「よしがんばろう!」

「できる範囲でな! 明日からな!」


 もはや投げやりのヤケッパチに、シノギは叫び返すのであった。

 なんというか、三人は今日も仲良しである。




 ――足らざる者の足掻き 了



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