君の行く道、帰る道



 せっかく足がついているのだから、どうせならどこかへ行ってみないか。

 せっかく手が生えているのだから、どうせならなにかを掴んでみないか。

 どこへ行き、なにを掴むかって?

 そりゃ自分で考えろというものだ。

 だってお前、それはお前の人生なんだろう?


                 ――ある旅人の些細なつぶやき




 ――絶望というものがあるのだとして。

 ならばきっと、それはこんな色なのだろう。こんな形なのだろう。


 黒い。

 黒い、奇形だった。


 なにか似たものを探せば巨大な蟻が近いか。長大な蜘蛛が近いか。

 その身は前体と後体の二部分に分かれ、それぞれが卵のような楕円形をして繋がっている。

 なにより目を惹くのはその多足。

 前後の体の側面あらゆるから隙間なく足が生えている。不規則な長さで伸びて休みなく稼働を続ける。

 おぞましいほど細く、気味が悪いほど長い。吐き気を催すほどに多い。

 むしろそんな足の形や数では動きづらい、生存のためには確実に無意味と言える多足。それは正常な生態系から外れた魔なる存在ゆえの歪である。


 わさわさと、身の毛のよだつ足音をたててそれは歩む。

 きりきりと、歯ぎしりのような金切声を鳴らしてそれは進む。


 整然とした行進。一糸乱れぬ行軍。悪夢の如き軍勢。

 彼らは線を引かれたような直進をする。升目を描いたような綺麗な隊列をなす。

 なにもかもに無関心で直進を続ける、千に達する魔物の群だった。


 どんな障害があっても真っ直ぐに。多くの人々と交錯した。踏み潰して歩む。

 どんな地形であっても真っ直ぐに。幾つかの町村を通過した。破壊し尽くして歩む。

 どんな攻撃を受けても真っ直ぐに。防衛の魔術や剣が襲い来た。構わず、歩む。


 その過ぎ去った後には血と瓦礫と足跡しか残らない。


 それは人の世で「歩み寄る絶望アデスペント」と呼ばれる魔物。


 彼らの行進は、今日もまた続く。



    ◇



 現代にまで残った神遺物アーティファクトには下位のものが多いという事実を知っているだろうか。

 言ってしまえば玩具であったりゲームであったり、遊戯や娯楽用のものばかりだ。他には日用品であったり調理用、もしくは使い捨てであったり、ともかく武器ではない。


 なぜなら武器――戦闘用の神遺物アーティファクトはおよそ戦争に持ち出され、そして失逸しているからだ。


 神々は遥か古代、栄華を極めて人には成しえぬほどの魔術技術を誇っていた。

 だが、その終わりはあっけなく、身内同士の戦争によって滅びた。

 天地戦争と呼ばれるその神同士の滅ぼし合いは、全滅という終幕を用意していたのだ。

 ゆえに現代において神々は存在せず、その忘れ形見と人類とが共存している。


 忘れ形見――神遺物アーティファクト、人知を超えた超魔術兵器たるそれは、人にとって甚大なる再現不可の絶大なる力。ひとつ所持するだけで一騎当千、替え難い奇跡の執行人となりうる。


 だが、神々にとっては文字通り児戯に等しい。

 本当の兵器にあたる武器の神遺物アーティファクト、数少ない戦争道具はそのほとんどが失われている。


 しかしもしも。

 もしもそれを手に入れたとすれば、それはきっと恐ろしく強大なる力でもって他を圧するのだろう。

 それを指して「決戦兵装神遺物ウォーパーツ・アーティファクト」と区分する。


「というわけで今回は神遺物しんいぶつの運搬だ、しかも武器。やべェぞ」

「決戦兵装の神遺物アーティファクトとは珍しいな」


 長閑な原っぱの広がる地平、見渡す限りなにもないような草原。

 大地を覆う緑と澄み渡る天空の青さだけが、そこにはあった。


 ならば黒く着込む三者は、二色のコントラストを崩す無粋な旅人か。

 黒いスーツのシノギは道なき道を行きながら笑う。


「おう、珍しいからな、そのぶん報酬はいつもより高ェぜ」

「それはよかったな」


 相槌にも本気で喜ばしさを滲ませるのはリオト、黒いカソックで緑の道を進む。

 最後に黒いドレスの幼女、ベルはふむと並んで歩く横合いへと問いを向ける。


「時にシノギや」

「なんでい」

「以前のおぬしの商売敵、ええと、なんというたかな」

「『飛送処ヒソウショエスタピジャ』か?」


 運輸転送機関『飛送処ヒソウショエスタピジャ』。

 物を転移し人へと届けることを生業とした巨大機関。全世界に普及し、あらゆる人々が利用する現代において欠かせぬ組織である。


 ベルは以前に聞いたそれを、此度の郵送において思い出していた。聞いた説明と現状を鑑みると、ひとつ疑問が生じるのであった。


「うむうむ、それじゃそれ。そこは確か神遺物アーティファクトの転移ができないのであったな」

「ああ」

「では、神遺物アーティファクトの運送は仕事になるのではないか。郵便屋が繁盛しそうなもんじゃが」

「残念、神遺物運搬はそれの専門家がいる。っていうか『飛送処ヒソウショ』がそういう部署を設けてる。おれに回ってくるのはほとんどねェ」

「む、そうであったか」


 どんな小さくとも隙間があれば商売人が見逃すはずはなく、金儲けへともっていく人種というのは必ずいるものだ。

 ベルの言うように、確かに『飛送処』は神遺物アーティファクトの転移ができない。だが、ならばそれを埋める対策をしていないはずもないのだ。


 そうなると今度は別に首を傾げる。リオトは問う。


「じゃあ今回や、前回の件はなんだったんだ?」

「前回はな、神遺物の投棄であって運送じゃねェんだ」

「? 違うものなのか」


 三人の出会う切っ掛けとなった依頼を思い出しながら、シノギは首を横に振る。


「全然ちげェ。運送なら信用問題でまずありえねェことだが、投棄となるとネコババする輩がでてくるんだよ」

「ああ、捨てたと偽り持ち逃げかや。確かにまずバレんの」

「だから運送屋もよほど信用されてねェと投棄は依頼されない」


『飛送処』でさえ、持ち逃げの事例はあったらしい。


「まあ投棄の依頼自体滅多あるもんじゃねェけどな」


 手に入れた神遺物アーティファクトという強大にして高価なる品を、なぜ捨てるという。無論、個々人の事情があるのだから、そこは掘り下げても仕方ないことだが。

 とまれ、要らない捨てるというのならば拝借しても問題あるまいと屁理屈こねる盗人は少なくない。


「そういう稀でニッチな事情が発生するとおれの出番ってわけだ。おれは呪いを受けてて、それを喧伝してあるから、依頼の品を奪う可能性はゼロだ」

「なるほど、だから投棄依頼の前回があったと。では今回は?」

「単純に決戦兵装の神遺物っつう希少な品だ、万が一のネコババを恐れたって面もあるだろうし、だいぶ急ぎの用でもあって、けど、なにより今回はちと特殊でな――届け先が村や町じゃねェ」

「ほう、ではどこじゃ。またダンジョンかの」

「いや、野原のど真ん中だってよ」

「? どういう意味だ?」


 爽やかな風が吹く。

 原の草草がなびいて見えないはずの風が通り抜けるのがわかる。

 遠くどこまでも、緑色の海が波打っている。


「ここら辺のどっかで待ってる、らしい」

「ここら辺。らしい。ほう、なんとも雑じゃのぅ」

「だったらよく見渡しておかないとな。と言っても、ここまでなにもなければ見逃すこともなさそうだが」

「しかしどうしてまたこんな道とも言えぬ場所で待っておるのじゃ、危ないじゃろ」


 およそ全ての人の住まう地には結界が張られている。

 それは世界中どこにでも徘徊して跋扈する魔物という小規模災害から逃れるためだ。

 結界の外には魔物が溢れ、人々を見つけては襲い来る。この世界は広いが、人の暮らせる安全圏はずっと狭い。まるで海に点在する孤島のように、人里同士は隔たって遠い。


 それを繋げるのが冒険者であり旅人、そして『飛送処』であり郵便屋である。


 孤島から孤島へと移動に際して護衛を雇うか、もしくは戦闘力を用意しておく必要性があるということ。

 理由もなしに外で待つというのは明らかに奇妙だろう。文字通り、海の波間でぷかぷかと流される漂流者のように危険極まることなのだから。


「……それは」


 シノギが少し言いよどんでいると、ちょうど視界の隅になにかが映る。

 あえて言葉を飲み込み、別に変える。


「と、見つけたな」


 今回のお届け先が見えてきた。

 ぽつんとひとり、緑の原の海に佇む少女がそこにいた。



    ◇



 テュシア・ゴートリィという。

 届け人は前髪の長い少女だった。


 華奢で背が低く、肉付きはあまりよくない。押せば倒れてしまいそうな儚さがあった。

 灰色の癖っ毛が多く柔らかで、美しいルビーのような瞳の大半を隠してしまっているのが特徴的だった。


 少女は原っぱの真ん中でなにをするでもなく空を仰いでいた。草を踏んで近寄ってみてもこちらに気づかない。

 どこか侵しがたい風情に気後れしつつ、シノギは声をかける。


「あのー、テュシア・ゴートリィさんでよろしかったですかね」

「……あ」


 声に振り返る。

 少女は前髪の向こうのあどけない目でシノギをしかと捉え、けれど怯えることもなく控えめに微笑んで応える。


「はい、わたしがテュシアですけど、どちらさまでしょぉ……」

「どうも。クールにスマイル、いつもあなたの郵便屋さんですよっと」

「まあ」


 ぱぁと、顔中が喜色に輝いていくのがわかる。前髪で隠れていてもわかる。

 テュシアは間延びしたような独特の言葉繰りで丁寧に頭を下げる。


「まあまあ、それはそれはぁ、お待ちしておりました郵便屋さん。こんなところまでご足労いただいてありがとぅございますぅ」

「いえいえ、お待たせしましたようで申し訳ない」


 言いながら、早速シノギは魔刀『クシゲ』から取り出した神遺物アーティファクトを差し出す。営業スマイルを浮かべる。


「お届け物はこちらでよろしかったですかね」

「ありがとぅございますぅ、たしかに『燎原の火涙ロクメ・フォティア』ですねぇ」


 それは弓だった。

 弦まで含め燃えるように赤いところを除けば、装飾も特徴も変哲もないただの長弓に見える。けれどやはり神威カムイが強く感ぜられ、間違いようもなく神遺物アーティファクトである。

 テュシアにとって、待ちに待ち望んだ決戦兵装の、だ。


「ほんとうに、間に合ってよかったぁ」


 安堵の息を吐く少女に、ベルは興味をそそられる。

 その言葉は、つまりタイミングがあるなにかがこれからあるということ。この決戦兵装神遺物ウォーパーツ・アーティファクトを行使するべきなにかが。

 シノギが渋ったこの場所での送品受け渡しの理由も含んでいると直感もして、ならば問うに躊躇うこともない。


「ふむ、前髪の嬢よ、なにかそれが急ぎ必要であったのかや」

「ベル」


 僅かに咎めるような棘ある声にも、ベルは聞く耳もたない。

 こういう時に好奇心を抑えられないのは悪い癖だが、自覚あっても治らないものだ。


「なにか、それが必要となる事態が差し迫っておるのではないか?」

「ええ」テュシアは常のようなか細い声で至極あっさりと言う「あとすこしで、ここに魔物の大群がやってきますのでぇ」

「……え?」


 それに驚き声を発したのはリオトである。

 まるでこれからにわか雨が降るとでもいうような口調で声量で、あまりに何気ない発言だったので一瞬聞き違えたかと思った。意味合いを掴み切れないでいた。


 構わずマイペースに少女は続けて、笑みのままその質感だけを心配に変調させる。


「ですので、あなたがたもはやく逃げたほうがよろしいかとぉ」

「え、いや、君は……いやまさか」

「はぃ。わたしはこの『燎原の火涙ロクメ・フォティア』で魔物たちを退けないとぉ」


 そうせねば、彼女の背――その遠くにある故郷が滅んでしまうから。


 変わらぬ柔和な笑みとおっとりとした言葉遣いに見えづらくなっていたが、その声には揺るぎない覚悟がこもっている。遅ればせながら、リオトにはそれがわかった。


 どうしてこんな少女がそんな決死の覚悟を決めねばならない。世の理不尽に、リオトはどうにかならないのかと慌てふためいてしまう。気まずそうな顔のシノギに詰問のように問いただしてしまう。


「けっ、結界は……」

「今、こっちに向かってきてる魔物を「歩み寄る絶望アデスペント」って言ってな、蟻みてェな蜘蛛みてェな魔物なんだが、そいつには特徴がある――真っ直ぐ進むんだ」

「真っ直ぐ」


 繰り言に頷く。


「通常、人里を囲う結界ってのは魔物の目をくらますもんだ。見えなくて、人の気配を感じなくて、だから来ない。そういう種類の結界だ。魔物ってのは人を見つけてからそっちに走るもんだからな」

「しかし件の魔物はただ真っ直ぐ進むと」

「ああ。どこに人がいるとかいないとか、そういうのは関係なくて本当にただ直進する災害なんだよ――目晦ましの結界が張られていても、無関係にな」

「厄介な魔物もいたものじゃな……それで村に辿り着く前に掃討するために、おぬしがいるのか」

「はぃ」


 村の移動など不可能で、魔物の直進もまた不可避。

 ならば村を守るためには、魔物どもを全滅させる他にない。そうでなくば。


「じつはふたつほど、もう村が滅んでる。その「歩み寄る絶望アデスペント」の進路上にあった村がだ」


 ――人の暮らせる安全圏はずっと狭い。


 結界内であったとしても、あらゆる手段で魔物は侵入をする。それを防ぐ人の努力と、果たしてどちらが勝るかでその人里の寿命は決まる。

 絶対の安全など、きっとこの世のどこにもありはしないのだろう。


「そういうことかや。それでその情報が此度の村に伝わり、慌てて神遺物アーティファクトを要請したのじゃな」

「ああ。この状況を打破しうる神遺物の貸し出し依頼があって、遺物管理機関『教会チャペル』っつう機関が請け負った。で、その運搬は紆余曲折あっておれのとこにきたわけだ。終わった後の返却も含めてな」

「……しかし神遺物アーティファクトの貸し出しとはの」


 面食らった顔でベルは声をあげ、リオトも無言の内に驚いている。

 そういう時代で、そういう進歩を遂げたのだろうとは思えるが、旧き魔王と勇者には驚愕を避けられなかった。

 シノギは頷いて、リオトに目くばせ。


「ああ、教会チャペルって言や、リオトの古巣であってるか」

「む、ああ。だいぶ昔だから、今とじゃ体制が変わってるんだろうが」


 教会チャペルとはそもそも神々のうちでなんらか人を救済してくれた逸話をもった神を信仰する宗教団体を母体とする。


 天地戦争の折り、戦いを忌避して人々を守った守護の女神。人に魔術を授けた知啓の神。死ぬその時まで人界で過ごした隣人の如き神など、信仰する神は一柱に絞らない。


 そして戦後、神々が滅んだ後には彼らの遺産たる神遺物アーティファクトを保管することを主目的として活動している。それが亡き神々への信仰の示し方であると。


教会チャペルは昔から神遺物の収集と管理をしてたが、ある時から機関長が代替わりしたのを機に収集していた神遺物を人々の役に立てようって貸し出しをはじめたんだよ。多くの支部に幾つかの神遺物を保管して、要請に応じてそれを貸し出す。まあ、金はとるがな」

「それで此度は魔物の進路上の村から、その掃討が可能な神遺物アーティファクト貸し出しの依頼があったわけじゃな」

「そうなるな」


 ようやく、リオトとベルは事の成り行きを把握する。

 魔物の襲来、そしてそれに抗するための神遺物アーティファクトの調達。たったひとり立ち向かう少女。

 把握した上で、リオトはひっきりなしに鳴り響く警鐘を振り払いながら、慎重に言葉を選ぶ。


「その神遺物アーティファクト、『燎原の火涙ロクメ・フォティア』だったか? それは確実に魔物の群れを打倒しうるものなのか?」

「ああ、それはまず間違いねェ。なにせ決戦兵装だ、その殲滅力は折り紙付きだろうよ。ただ」


 それでなんの問題もなく話が済むのなら、シノギがここで言いよどむことはなかろう。

 ならば、なにか落とし穴がある。簡単に解決するようなオチにはならない。


「あー。その、なんだ――「決戦兵装神遺物」は強力だ。並の神遺物より、さらに破壊に特化してる」

「だから、なんだ」

「だから、そのぶん、要するエネルギーが多い。代償が重い――それこそ、ひとひとりぶんの命を要求するくらいにな」

「なんだと!」


燎原の火涙ロクメ・フォティア』、それは一部で少々有名な神遺物アーティファクト


 曰く――担い手の命を矢として番える神弓。


 それすなわち、人ひとりぶんの命を捧げることで一矢射るという、身を焼く弓矢である。

 神々が使ったのなら、きっとそんなことにはならなかったのだろう。人の身では神様基準の武器には耐えきれないということ。


 魔術的な鍛錬を積んでもいない。素養が飛び抜けて優れているわけでもない。

 そんな少女が担うのならば、たしかに神弓はその命を食らい輝くのだろう。

 シノギが終わった後の返却郵送を求められたのは、そのためだ。


「じゃあ、きみは……」

「はぃ、わたしの命をもって、故郷がたすかります」

「君はそれでいいのか!?」

「はぃ」

「っ」


 なんの躊躇いもない即答。

 むしろリオトのほうが気後れして、その間にテュシアは歌うように語る。諦めたわけでも自棄になったわけでもない、ただただ誇らしげな微笑をたたえて。


「わたしひとりで大勢助かる。それも、わたしの大切なひとたちが。それはとても、割のいい代価でしょぉ?」

「そんなこと――!」


 ヒートアップするリオトに、冷や水のようにシノギはぼそりと呟く。


「求められたのは適当に責任感が強くて――適当に死んでもいい人材」

「なんだよ、それ!」

「これこれ、シノギに声を荒げても仕方なかろう」

「っ。いや、すまない、シノギ」

「いんや、胸糞悪ィのはおれもわかる、残酷だよな。けど、そういうことはあんたらの時代からあったよくある話だろ」


 人里を守るために人柱を立てる。

 多くのためにひとりを犠牲にする。


 繰り返される悲劇であり、そして生き延びるため仕方ないと言い訳し続けてきた幸不幸の理。

 本当に――よくある話だ。


「今の時代だって、犠牲はなくならねェ。小さな村が滅びるなんてのはよくあることだし、外界に出て帰ってこないなんてのはザラだ。それをいちいち気にしてたらキリがねェ」

「しかし、神遺物アーティファクトを貸し出すというのなら、こんなリスクの高いそれでなく、もっと安全なものはなかったのか」

「むしろこれでも運がいいほうなんだぜ。

 おれがたまたま近くに居て、管理機関の支部が偶然近くにあって、そこに保管されていた神遺物でこの危機を打破しうるものが丁度よくあったってのは」

「む、そうか、本来なら、手立てがそもそもなかったのじゃな」


 信用できる運搬者が居合わせたことも、支部が近くにあったことも、そこに殲滅の神遺物アーティファクトがあったことも――幸運すぎるほどの幸運。

 そこまで偶然が巡り合った幸運を得てなお、ひとりの犠牲を要求する。


 やるせない思いは、シノギにだってある。


「時間がな、もうちょい時間さえありゃあ話は違ったんだ。けど、事ここに至って、そりゃなんの意味もねェたらればだ」


 草臥れたシノギのため息に、ベルは閉口し、しかしリオトはそれでもと叫ぶ。

 彼は不屈の魂を持つがゆえ。


「だけど、それでも。目の前の悲劇を、手の届く悲しみを見過ごせるほどに盲目でもない。助けられるのなら、助けたいんだ」

「だよな、あんたはそういうよな」

「え」


 あっさりと頷くシノギにリオトはぽかんとした顔になる。

 その顔が面白くて、シノギは笑って、それからテュシアに顔を向ける。


「それでお嬢さん、あんたが犠牲に他が助かるのは確かに数の上では悪くないだろうけどよ――単純、生きられるなら生きたいかい」

「それは……」

「もしもイエスなら、まあ、こっちの神父のお兄さんが奮起するってよ。で、じゃあならおれとこっちのドレスのお姫様もがんばんなきゃならねェ」

「…………」


 今度はテュシアがわけがわからない。シノギの発言の意味も意図も掴みとれず、言葉を失する。惑い、困り、怪訝を滲ませる。

 まさか見ず知らずの、先ほど出会ったばかりの人たちに手を差し伸べられるとは想定もしていなかった。だって、それは命がけだ。助けて報酬があるわけでもない。


 本気で言っているのか――その前髪に隠れながらも輝く大きな紅眼で、テュシアは彼の悪瞳をじっと見据える。


「……っ」


 少女の大きな瞳は、一層に見開く。

 その軽薄な口調、雑な態度に反して――燃え上がるような黒瞳には嘘が見えない。本気で言っているとわかってしまう。彼女はそういう意思をくみ取るのが得意だった。


「いっ、いえ! そんな! あなたがたには関係のないことで……!」


 テュシアはあわてて両手を振る。か細い彼女には珍しい、大きな声が喉から飛び出す。

 死ぬのは自分だけで充分だ。優しさは嬉しいが、それよりも生きてほしいと思う。


「誰もそんなことは聞いてねェ――生きたいか、死にたいか。どっちだ?」


 ぴしゃりと、シノギは求める回答以外を塞ぐ。

 彼の目つきを恐れもしなかった少女は、しかしその問いかけには酷く青ざめていた。


 ――生きたいか、死にたいか。

 そんな、そんな愚問。答えられるはずがない。


 それを口にするのは酷く恥知らず。それを求めるのは底抜けに浅ましい。

 もはや捨てたもの、もはや終わったもの。ここで翻すような愚かしい真似などできるはずもない。したくないと彼女自身がそう思う。

 そのはずなのに……!


「……」


 沈黙はなによりも雄弁。

 少女は懊悩の果てにシノギの目つきから逃れるように俯いた。まるで拒絶する壁のように、テュシアの前髪は彼女の瞳を隠してしまう。


 即答できないでいることに戸惑い、自己の愚かしさに少女は失望する。なにか言おうと試みて、けれど口を開けば弱音を漏らしてしまいそうで歯噛みするしかできない。



 そんな少女を眺めて――ああ、とシノギは思う。

 ああ、なんて、なんて心優しい少女なのだろうかと。


 こんな当たり前の問いかけにも迷い、恥じることなどない結論に恥じ入る。

 だからこそ、見過ごせない。誰かしらを思い出して――その決意の固さを崩したくなる。

 言葉に迷う少女を笑い飛ばして言ってやる。


「覚悟決めて勇気振り絞ってるところ悪ィがよ、水ささせてもらうぜ。なに、人生生きてりゃこんなこともあらァな」

「どっ、どうして、そんな……」

「おれァ全部ひとりで背負いこんで、泣きたいくせに強がって笑うような奴を見るとな、邪魔したくて仕方なくなるんだ。その覚悟を蹴っ飛ばして、おれにもやらせろって言いたくなる」

「っ」


 なにが、なにを、そんな……!

 テュシアは沢山の感情が溢れかえって、多くの言葉が押し寄せて、そのせいで詰まってしまって音にならない。ぱくぱくと何度も言葉を作ろうと鳴らそうと頑張って、けれどなにひとつとして意味をもった声にはならない。


 処理しきれないでいる少女に、最後に一度ニッと笑いかけ、それから振り切る。

 意外そうなリオトとベルに向き直る。


「やるぜ、ふたりとも」

「シノギ、いいのか」

「は、言っただろ。おれはああいう奴を見てると邪魔したくなんのさ。まァおれひとりだったら逃げるんだけどな。三人いればなんとかなるかね」


 嘘である。彼はひとりでも彼女を助けようとしたことであろう。

 リオトとベルにはそれがわかる。

 けれどそこには追求しない。無粋だろう。


「ティベルシアは?」

「うん? まあ、『燎原の火涙ロクメ・フォティア』とやらの矢を見れんのは残念至極じゃが、構わんとも。手伝ってやろうぞ」


 別に、魔王にとってこの程度の災害、とるに足りん。どうでもいい。

 ただ同胞のふたりがやる気になっているのなら、乗らずしておられるか。とるに足らない災害に恐れるべくもなし、華麗に叩き潰してやるとも。


 これにて三人、同意が得られた。

 ならば一致団結、この事態の打開に努めるだけだ。

 同じ目的を据えた時、この三人にできないことはきっと少ない。


「んで、あんたらなんか策はあるか?」

「大魔術で一撃の元、消し飛ばす」

「できんのか?」

「今のわしには無理じゃな」

「じゃ黙ってろ。リオトは?」

「力の限り頑張る」

「はい黙ってろー」


 そうか、なんとなくわかっていたが、やはりそうか。


 シノギは思う。

 圧倒的な強者である魔王と勇者――ゆえに小細工など考えない。弱者の計略など構築しない。そんなことせずとも負けるわけがない。


 だからこそ、こうした場において作戦を練るとなるとどうにもままならない。頭は回るし知識もあって、けれど不慣れで発想が遅い。

 少し猶予を与えればそれなりに思いつくのだろうが、今は一刻も惜しい。ここは弱者代表のシノギが前に出るほかないようだ。


「しゃーね、おれに考えがある。あんたら力貸せ」



    ◇



歩み寄る絶望アデスペント」の群は行く。


 地鳴りを引き連れ、緑の原を踏み均し、我が物顔で大地を横断する。

 駿馬すらも逃げ切れない速度で、平面的には逃げ場ないほど横に展開した、それはまるで黒い津波である。

 津波はなにもかもを巻き込んで飲み込んでしまう。それはそういう災害だからだ。


 彼らの後ろには綺麗なものはなにも残らない。美しいほどの緑地を蹴散らし、汚らしい泥と腐敗だけがそこにある。

歩み寄る絶望アデスペント」は食っている。

 進行上のあらゆるものを噛み切るほどに鋭い大顎を備え、それはもはや裁断する牙である。

 彼らが鳴らす歯ぎしりのような金切声――大地を食らう咀嚼音が足音とともに木霊し続ける。


 無論、摂取をするならば排泄もする。

 立ち止まらず、食った傍から即座に穢れた汚物をまき散らしていく。


歩み寄る絶望アデスペント」はどこまでも歩む征服者であり、また同時になにもかも穢れに沈める汚染者である。

 ゆえにこその絶望の名だ。

 そんな絶望の。 


 ――群の先頭一列が消えた。


 続いて二列目、三列目。次々に消えていく。

 否、それは消失ではなく落下である。


 その起伏のない平原に、なんの脈絡もなく裂け目が開いている。

 綺麗に四角くくり抜かれ、不自然なほど真っ直ぐな、穴。落とし穴。


 展開する「歩み寄る絶望アデスペント」の陣形をすっぽり収めるほど横に長く、代わりに縦に短い。「歩み寄る絶望アデスペント」が落ちれば、底で一歩も歩めぬほどに。


 その穴に、真っ直ぐにしか歩めぬ魔物どもは墜落していく。迂回も跳躍もしない、そもそも穴があることにさえ気づいていない。落下中でさえ、彼らは足を動かし続けて、けれど踏みしめるはずの大地もなくば前進ままならない。

 深い深い穴の底に落ちて、その衝撃で数瞬間硬直。


 そして次の墜落者が上からのしかかる。


 さらにまた衝突。重なり重なり折り重なる。

 まるでそれは地層のよう。「歩み寄る絶望アデスペント」が大地の底に累積し、押し込まれ、嵌っていく。


 同族によって上から押さえ込まれ、それらの重量が全身を襲う。

 最下層の一列は、十も支えきれずにぺしゃんこに潰れてしまった。そして二列目が最下層となって、また同じく加算続く質量の横暴に潰れる。


 潰れ、潰れ、押し潰れ、「歩み寄る絶望アデスペント」は数を減らしていく。死滅していく。


 だが、それでも。


 穴の深さには限度がある。魔物どもはおぞましいほど大軍だ。

 遂に穴は死骸で満たされ埋まって――その死骸が道となる。


 同胞を踏みつけにして、その無数の骸で折り重なってできた橋を渡る。

 数は減った。だが変わらない。彼らの前進制圧の本能は些かも衰えずに足を進めて。


 ――次の穴に落下した。


 先ほどと全く同じ。横に長く縦に短く、底に深い。

 そしてまた、先ほどと全く同じように「歩み寄る絶望アデスペント」たちは落下していく。落下していく。落下していく。


 しばらくしてやはり全く同じように死骸の橋を築くまで、「歩み寄る絶望アデスペント」はなす術ない転落と死の重量に自滅していく。

 ようやっと橋を築いたとて、再三。


 穴はそこに待ち構えている。


 注意深く見遣れば、ああなんということか。

 愚直な彼らの道行く先には、十近く大穴がその口を開いて笑っている。


 絶望の足音は、もう聞こえない。



    ◇



「ん、なんとかうまくいったみてェだな」


 よかったよかったと。

 最後に這い出てきた数匹を斬り殺してから、シノギは安堵のように呟いた。


「なんとも悪辣……いや、悪戯小僧の発想かのぅ」


 と、ベルの感想は実にその通りで、非常にしたたかというか、えげつない。その割に幼稚な悪戯染みた作戦であったと言えよう。


 ちなみに彼女、ひとりですべての穴を掘り起こしたために現在魔力切れでへたりこんでいる。

 魔術による穴掘りも結構に重労働だったのである。なにせこれ、言わば地割れを人為的に作ってくれというようなもので、相応に術師としての力量を問われた難題であった。


 まあ、やれるかと問われて否と首を振るベルではないのだけれど。

 策ありとのたまったシノギはまずこう言った。


「ベル、進路上っぽいそこらへんによ――落とし穴、作れ」


 そう、仕掛けは単純にして古典的。子供の悪戯とさえ思われそうな――落とし穴である。


 ただ真っ直ぐにしか歩けない愚物など、罠に嵌めるのは容易に過ぎる。

 といってそう凝った罠を張れる時間もないし、下手に複雑なものにすると脆さがでる可能性もあって。

 だから明確にしてシンプルな構造、大地という堅固さを利用したトラップ、落とし穴を選択した。


 結果はご覧の有り様。

歩み寄る絶望アデスペント」は多く圧死し、這い出た少数も斬り捨て御免。

 なんとも容易く、全滅である。


「…………」


 事の成り行きを傍観していたテュシアは、唖然とするより他にない。元より大きな紅い瞳を、限界まで瞠目させて驚愕に絶句する。


 夢のように荒唐無稽、嘘のように無茶苦茶。

 けれど確かに、彼女の故郷を滅ぼすはずだった絶望は消え失せ、そして彼女は生きている。


 ああなんて、信じられない数奇であるか。

 なんて信じられない光景であるか。


 まさかこんな幸運が巡り合わせるだなんて――この目で見たというのに未だに信じられない。

 ふと、硬直していたテュシアの頭の上に手のひらが乗る。振り返れば、悪ガキのような笑みがある。


「言ったろ――人生生きてりゃこんなこともあらァなよ」

「ゆっ、郵便屋さん……」

「ま、これでそいつは無用の長物だろ? 返却するから寄越しな」

「えっ、あっ、はぃ」


 言われるままに、テュシアは握り締めていた赤い弓『燎原の火涙ロクメ・フォティア』をおずおずとシノギへと返す。

 結局、使うこともなくただ握り締めていただけの神遺物アーティファクト。命を捧げるはずだった奇跡の具現――本当の奇跡を前に、その神遺物アーティファクトはなんだかどうして、とてもつまらないものに思えた。


 手放すのに、少しの躊躇いもなかった。

 シノギは再びそれを魔刀「クシゲ」に仕舞い込むと、一仕事終えた風に伸びをする。


「よし、これで全部終わりだァ。帰るぜ、ふたりとも」

「うむ、今日は疲れたでのぅ、さっさと帰って寝るとしようぞ」

「お疲れ。ともあれ誰の犠牲もなく終わってよかったよ」

「えっ、え、あの……!」


 なんということもなく、気の抜けた会話をはじめる三人に、テュシアはおっかなびっくり声を張る。

 あれだけの規模の魔物を一網打尽にし、テュシアの命を助けてくれて、そんな彼らはなんということもなく笑っている。


 誇るでもない、酔いしれるでもない、安堵するでもない。

 ただ日常風景のように言葉を交わし、平常の延長として魔物を打倒して、そして終わってさっさと次に移る。

 このままではテュシアのことなど、彼女の抱いた無限にも似た多くの感情など気にもとめずに、彼らは去っていくだろう。笑って、いつも通り、彼らの日常に帰ってしまう。


 それは……ちょっと待ってほしい。


「おっ、終わったん、ですかぁ?」


 なんとか振り絞って出てきたのは、そんな問いかけだった。

 馬鹿なことを聞いている。テュシアは自分でそう思ったが、なんとも言葉に迷って混乱して、ついついわかりきったことを口走ってしまったのだった。

 シノギは若干気だるげに頷く。


「おう、終わったぞ。あんたも無事、村も無傷、おれたちもまー疲れたくらいで、めでたしめでたしだ」

「めで、たし……」


 その言葉はもはや自分に縁のないものだと、今朝に村を出た時に捨てたそれ。

 けれど現状には、これ以上ないほどあてはまる。望むことすらできなかった、最も望ましき結末。


 テュシアは弾かれたように顔をあげ、その勢いで前髪が割れてうるんだ瞳が露出する。真っ直ぐに、その紅瞳でもって悪瞳を見つめて。


「あっ、あの! あの! ありが――」

「礼はいい」

「っ」


 やはり、言わせずにシノギは自分の言いたいことだけを述べる。


「おれらが勝手にやったことだ、あんたに頼まれたわけでもなく勝手にな。礼を言われる筋合いはねェ」


 そうだ、気に食わないと思ったのはシノギで、それは少女の覚悟をぶち壊した。

 ほんとうに、シノギの勝手だ。少女は彼の知り合いに、すこし似ている。

 だからどうにも、放っておけなくて、思わず手だししてしまった。

 自分の行動の不似合に、シノギは照れくさそうに苦笑してしまう。


 この上、お礼なんざ言われた日にゃもうなんか爆発してしまうのではないか。らしくないことなんて、するもんじゃない。

 そんなシノギの複雑怪奇な想念を読み取ったわけでもなかろうが、テュシアはやはり目を逸らさない。なにぞかくすりと微笑んで、その目と目を合わせる。まるで絡み合った視線でつながっているように。


「じゃぁ、わたしも勝手、しますねぇ」

「あん?」


 にっこりと笑みを深めて、テュシアは有無を言わせずシノギの手をとった。

 両手で包み込み、優しいけれど拒絶も許さぬ不思議な力加減で祈るように。


「ありがとぅ」


 ――その紅い瞳が綺麗だなと、シノギは思った。


 あんまり綺麗だから、思わず、目を伏せ逸らしてしまう。そんな輝かしいものを見ていられるほど、この目は遮光性に優れていない。

 咄嗟にグラスがほしいと手を伸ばそうとして、掴まれていてそれもできない。

 草臥れたような掠れたため息だけが落ちる。


「……聞いてたのかよ」

「えぇ、ですからぁ、勝手、ですぅ」


 言いながら、テュシアは少し屈んで、俯いたシノギの顔の正面にやってくる。

 ひきつった笑みで、シノギはもはや目すら逸らせない。射抜かれて、見透かされて、肩を竦める。


「そうかよ、そうか。なんだか、なんともなァ」


 勝手をして、ならば勝手をされることに抗議するのは道理に合わない。

 かといって素直に礼を受け取るほどに、シノギの意地は安くなくて。


 見つめ合って硬直するふたりに、ふと横合いから割り込みがある。


「わし! 礼を述べるならまずわしじゃろ。今回の功労者じゃぞ!」

「そうですねぇ、ありがとうございますぅ」

「うむ!」

「こら、ティベルシア、はしたないぞ」

「神父様も、ありがとうございますぅ」

「む。どういたしまして」


 図々しいベルと律儀なリオト。

 あっさりと礼を受け入れるふたりをして、意地を張るシノギが馬鹿みたいじゃないか。それで呆れてはいてもやはり譲らない辺り、シノギは頑固だった。

 頭を乱暴に掻いて、もう歩き出すことにする。


「はァ、いいから帰ろうぜ」

「まだお礼を受け取ってもらってませんよぉ」


 すぐにテュシアが追いかけて横に並ぶ。不満そうに見つめてくる。

 断固とした態度、シノギはつんとそっぽ向く。


「おれは絶対、受け取らんからな! 礼を言うのが勝手なら、それを聞かないのも勝手だ!」

「シノギ、流石にそれは大人気なさすぎる」

「本当に面倒な男じゃのぅ」

「うるせェ、おれはおれなんだから仕方ねェだろうが!」

「では、郵便屋さんが折れるまで、きっと何度でもお礼を言いますねぇ」

「うっ」


 笑顔のテュシアは眩くて。不諦の輝き、不屈の決意がまざまざと感じ取れる。

 きっと、何度シノギが受け流しても意味はない。いずれ遠からず観念するのは間違いなくシノギだろう。もはやそれは確信だった。


 なにせサカガキ・シノギ、こういう必死な健気さを見せられると弱いのである。

 それでも絶対、その最後の時まで拒み続ける意地っ張り。わかっていても見栄を張り続ける。そういう男だ。


「ちくしょ、負けねェぞ!」


 魔物の大群の恐怖などよりも、きっとこの意地が敗れ去るほうが、シノギにとっては悔しい出来事なのだろう。




 ――君の行く道、帰る道 了



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