第3話 かつての教え子

教師として戻ってくるなんて…

麻子が受け持つクラスの副担任として、この四月から勤務しているのが新任教師の美結だ。美結がこの女子校に生徒として通っていた頃のことを、麻子はよく記憶している。いつも美結のことを目で追っていたから。

「先生のこと、よーく覚えてますよ」

美結は無邪気に言う。罪悪感に、麻子は泣きたくなる。制服姿の美結を思って、数え切れないほど性的な快楽を求めた。我慢できずに勤務先であるこの学園の、教職員用のトイレで自慰をしてしまったことさえあった。

当時、自分は教師、美結は生徒。それ以上は望むべくもなく、かといって欲情から気を逸らすには美結は愛らし過ぎた。

美結が高等部に入学してきた年、麻子も二年めの数学教師だった。一年めから、何人かの生徒に手紙を渡されたり、といったことはあったが、生徒を恋愛の対象として見るなど考えられなかった。ところが美結のセーラー服姿をひと目見てからは…。いや、恋愛などという綺麗事ではなかった。麻子が当時、美結に抱いていたものは、情欲でもあった。

新入生の美結はすぐに上級生達の人気の的になった。そして秋にはそのうちの一人と交際を始めたのだ。確かに美しい顔立ちで背の高い二年生だった。

肩を並べて下校していく二人の姿を見て、麻子は嫉妬に苦しんだ。アパートに帰って、情けなさに泣きそうになりながら、美結を思って延々と自慰に耽る日々だった。

その美結が、同僚、職場の後輩として現れたのだ。七年経って、大人の女性になって。でもどこかにあどけなさを残している。髪は当時と同じ濡れたような柔らかそうな黒髪で、背中にかかる長さまで伸びていた。制服を目立たせてなどいなかった胸は今ははっきりと膨らんでいる。膝丈のフレアスカート。生徒だった頃ハイソックスが包んでいたふくらはぎを、黒いストッキングが包んでいる。

再会した日の夜、麻子は美結を思って自慰せずにいられなかった。思うのは今の美結でもあり、七年前の美結でもあった。

麻子には今、恋人がいる。昨年、教育実習で指導した奈央だ。奈央もこの学園の卒業生で、麻子が授業をしたことがある。高校時代はバトン部で、イベントがあるとミニスカートで演技を披露していた。

教育実習の打ち上げで、奈央の方から、不自然に麻子に体を摺り寄せてきたのだった。実習の主指導担当が麻子だった。

奈央の高校時代も、麻子は覚えている。一言で言えば奔放な生徒だった。女子大生と交際しているという噂が絶えなかった。社会人も含めた女性のみのパーティーに参加していたという話を聞くこともあった。パーティーでは成人女性たちの圧倒的な人気を得た、とか、パーティーで知り合った女性に自らの使用済み下着を譲ったとかいった「伝説」さえあった。そんな遊びのせいでもないだろうが、奈央は一浪して大学に入った。美結より一つ歳上だ。

結局教員にはならず、民間企業でOLをしている。社会人になって、さすがに落ち着いた、普通以上に真面目な雰囲気を醸している。そんな奈央とのデートは楽しい。よく映画を見に行く。映画館でスカートの上から奈央の太ももを愛撫する。奈央が声が出そうになるのを我慢する。スカートの中に指を忍ばせると、ストッキングは太もも丈のもので、直接ショーツに指先が触れる。ショーツが湿っている。

奈央は気持ちのいいことなら何でもさせてくれた。高校時代の制服を着させて目の前で自慰をさせたりした。

美結はそういうわけにはいかないのだ。教師になった今、生徒たちに「美結先生、可愛いー」と言われて自分の方が顔を赤らめてしまうくらいなのだ。

「生徒に舐められないくらいには、ハッタリでもいいから、すれた振りも大事だよ」

麻子は職務上、忠告する。

「あと、美結先生のこと、本気で可愛い、って思ってる生徒、多いんだから。告白されたりすることもあると思うけど、傷つけないように、でも毅然と断ること」

「えーっ。でもその生徒のこと、私も好きになったらどうすればいいんですか?」

麻子にしてみれば美結の、そんないきなりの冗談は冗談にならない。この愛らしい美結が、教師としての立場に苦しみながら、可憐な女生徒への禁断の情欲に密かに溺れていくなんて……。麻子自身、妄想に耽溺してしまいそうだ。

高校時代の恋人とはその後どうなったのか、今は好きな人はいるのか。いずれさりげなく美結から聞き出してやろう、と麻子は思う。恋人に不満があるわけではないが、ここのところ麻子は美結のことで頭がいっぱいなのだ。

(いずれ続編を)

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