第4話


「はぁー、疲れたー」


 試着会が終わりやっと自室に戻る事が出来た。


「……この体について調べるか」


 半日がたってからやっと体の事について調べる時間が出来た。こういうのって変わったらすぐに原因を確かめに行くものじゃないのか? なんで俺は普通に学校に行ってたんだろうか……

 手始めに一番の原因と思われるというかそれしかないが、雪を作ったゲーム『ホワイトノート』を調べることにした。パソコンを起動しホワイトノートを探すが――


「おかしいな……」


 どこにもそのようなゲームが入っていない。いくら探しても出てこない。ホワイトノートとググっても見たがその様な名前のゲームは見つからなかった。

 ふむ…… わからん。原因については一旦置いておこう。今度は雪について調べよう。まずはステータス画面を開こう。


 そう思うと視界の端から半透明の画面が現れた。


 名前:雪

 レベル:1

 職業:忍者

 スキル:忍術・甲 忍術・影


 ゲームだったら何の変哲もないステータス画面だな。スキルについて調べるか。


 スキル:忍術・甲

 移動速度10%上昇

 敵に対する物理ダメージ10%上昇 


 スキル:忍術・影

 10分間認識を阻害する

 再使用時間20分


 俺のゲーム歴10年のカンで言うと忍術・甲の方が常時発動しているパッシブスキル、忍術・影の方がプレイヤーが任意で使うアクティブスキルだな。でも、これって効果あるのか? パッシブスキルの方は検証するのが難しそうだからアクティブスキルの忍術・影を試してみるか。


 雪になったからなのか使い方は何となく理解できる。


『影』


 これでスキルが発動しているらしいが…… 見た目は何も変わってないな。発動しているか確認しに行こう。


 玄は自室からでて一階へ降り、リビングへと向かう。リビングからは母親と結衣の話し声が聞こえてきた。いつも通り扉を開けリビングの中に貼る。


「くろ兄ー、てば本当に可愛かったねー」


 名前を呼ばれたためスキルの効果が効いていないのかと思ったが母親に話しかけているだけであった。


「そうよねー、女の子見たいね。……本当に男の子なのかしら?」

「そう思って朝におっぱい触ったけど膨らんでなかったよ」

「…あらー、残念ね」

「…でも、くろ兄たら全然気づかないよねー」


 ……何がだ?


「そうよねー。試着した後に気づくと思ったのだけど」


 ……試着した後? 何かあったか…… 元の服に着替えただけだった気がするが


「でも可愛いらしいからいいんじゃない?」

「そうね。可愛らしいわね、猫耳パーカー」


 猫耳パーカー?


 玄はパーカーの上部に手を当てる。


 あ、猫耳ついてる。え、まじで、ってことは今日一日中猫耳着けて歩いていたって事か。


「……ねぇ、母さん、結衣」


椅子に座っていた二人がビクッと肩を上げこちらを振り向いた。


「び、びっくりしたぁ、い、いつから……?」

「…全然気づかなかったわ」


 ここまでしないと気づかれないためスキルが効いていることは検証できたが、玄は今それどころではなかった。


 一日中猫耳のパーカーで暮らしていたという事実に羞恥心でいっぱいいっぱいになっていた。


「お、怒ってる? くろ兄?」

「玄ちゃんの猫耳姿、可愛らしいからいいじゃない」


 自分で言うのもなんだがこの姿なら猫耳着けていてもぎりぎりセーフな気がしてきた。


「…まぁ、着たのは自分だし怒ってないよ」

「ほんと! じゃあ、明日はこれ着てくれる?」

「いやだ、もっと普通のがいい」

「えー、女の子だったら普通だと思うよ」

「女の子だったらな。でも俺は男だ」

「どっちでもいいよ、可愛んだから」

「良くはないだろ」


 結衣だけでなく母親も言い始めた。


「明日の学校へ行く服装、これなんてどうかしら?」

「きゃー、可愛い! これなら男子なんていちころだね」


 なんで男子をいちころにしなくちゃ行けないんだ。


 これ以上話していると明日、学校へ行く服装が恐ろしいことになりそうなので自室に退散することにした。猫耳パーカー恥ずかしいが脱ぐと寒いのでそのまま着ておくことにした。


「ふぅ。まぁ、スキルが効いていることが確認できたな。あとは……レベル上げか」


 元に戻る方法など皆目見当もつかないので、もう今を楽しむしかない。ゲームだと魔物を倒したりしたがここではそんなものいないしな。そもそも、危ないことをあまりしたくないし。

 この家族は玄も含めやはり適応力が高い、玄はもうゲーム脳となりいかにこの雪を強くするかを考え始めたのであった。

 戦闘でレベリングできないなら生産でレベリングするしかないか。MMOなら生産系ぐらいあるだろう。候補としては料理が一番ありそうかな。


 明日の昼は午前で終わりで家には誰もいないし作ってみるか。


 いつもならコンビニやスーパーで弁当を買ってくるがゲームとなるとやる気が凄い。不意に何か忘れていることがある気がした。


 あ、課題やらないと…… 仕方ないやるか。


 いろいろあって忘れていた課題を思い出し、やることにした。



「はぁ、疲れたー」


 課題も終わり湯船につかり一日の疲れを癒していた。


 それにしてもこの体肌白いな。すごくすべすべだし。でも、髪を洗うのはめんどくさいな。

 さっきまで長い髪を洗っていたのだ。いつもならわしゃわしゃと洗えばいいのだが髪が長いとそうもいかない。丁寧に毛先の方まで洗わなくてはいけないのだ。


 これからどうするかな…… まぁ、当分はこのままでいることを覚悟しておこう。……できるだけレベルを上げたいな。料理でレベルが上がらなかったら他にどんな方法があるかな。服とかも土日に買いに行こう。金欠だというのに痛い。あと身長が縮んだせいで高い物を取るのが大変だな。


 そろそろ上がるか。


 体をふきお風呂から出る。他人に見られることはないので仕方なく試着した中で一番ましな服装を着る。それでもフリフリはついている。


 リビングに行くと夕食の準備をしている母親とソファーでくつろいでいる結衣がいた。


「あ、くろ兄、上がったんだ。次私はいるー」


 結衣は風呂場へと向かった。結衣が座っていたソファーに腰を下ろしテレビをつける。

『……の桜マークが目印。 天気予報です。明日は――』


 なんとなくテレビを眺めていると母親が言う。


「ご飯できたわよー あれ結衣ちゃんは?」

「風呂入りに行ったよ」

「あら、そうなの」

「あと十分ぐらいしたら上がってくるんじゃない?」

「じゃあ、それまでに……」


 髪を梳くように触る。


「髪をちゃんと乾かさないとね」


 母親がこっちに来なさい、と言って化粧台に連れていかれる。


「玄、男の子でもね。その姿だったらいろいろ大変よ。自覚をもって行動をした方がいいわ」


 真面目な雰囲気をだして優しく言う。


 自覚か、そうだな。家族は今まで通りに接してくれているけど銀髪赤目って目立つもんな。


「わかったよ。お母さん」

「そう、ならよかったわ…… じゃあ、早速だけどこの服を着てみてはどうかしら?」


 結局か! でもまぁ、心配してくれているんだな。服についてはあれだが……


「はい。終わったわよ」

「ありがとう、お母さん」


 髪を乾かし終ると丁度に結衣も上がってきた。


「ふぅ、さっぱりしたー。あ、もうご飯できてる!」


 結衣が席に座りこちらを向いてはやく! はやく! と目で訴えてくる。

 玄と母親はその視線に急かされるように席に座る。


「「「いただきます」」」


 夕食は豚の生姜焼きだ。んー、おいしい! 美味しくて頬張ると結衣が、可愛い! もきゅもきゅしてるーと言ってきたが気にせず食べる。


 んー、おいしい、おいしぃ、おいしいんだけど……


 いつもと同じペースで食べているつもりだったが皿を見るとまだ半分も残っている。お腹も段々と膨れてきた。


「くろ兄、もうお腹いっぱいなの?」


 異変に気付いた結衣が問う。


「あぁ、いつもなら一人前食べても足りないのに…… もう、お腹いっぱいだ」

「なら、もらおっか?」

「あぁ、いいよ」

「ありがとー」


 生姜焼きの4分の1程度を結衣にあげる。


 体が小さくなったから食べる量も少なくなったのか。いまでは結衣よりも小さいからな。結衣は確か160センチくらいだったから俺よりも10センチ大きいのか。俺って小さいな。まぁ、自分で決めたんだけど。


「「ごちそうさま」」

「おそまつさま」


 夕食を食べ終わりリビングでくつろぐのもいいが、昨日今日と課題をやっていてあまりゲームをできなかったので自室にこもってゲームをすることにした。


 ゲームをする用のデスクトップのパソコンを起動し冷蔵庫から取ってきた炭酸とスナック菓子などのお菓子をテーブルの上に置く。

 ヘッドホンを装着し銃で撃ち合うゲームいわゆるFPSゲームを立ち上げる。


 ゲーム内のフレンドから『ブラック玄のゲーム内での名前が一日INしないとは珍しいな』とメッセージが来た。

 俺だって休む時ぐらいあるさ、と思いながらキーボードを打つ。

『リアルが忙しかったんだ』

『ほほう、彼女か?』

『違うわ!』

『まぁ、今日はクラン戦だから来てくれて助かったわ。いつものポイントで集合な』

『おk、直ぐ向かう』


 クラン戦か、久しぶりだな。俺たちのクランは全然有名でないからな、クラン戦できるのはありがたい。集合場所に向かうと、すでに4人待機していた。


「お、ブラックも来たか。あとはストムだけか」


 あと1人の仲間が集まる間に装備の整えておくか。いつものソロで戦う用のアタッチメントと違うアタッチメントに変更する。これは……こっちの方がいいか。味方の装備を見た感じ遠距離系の武器を持っていくか。 ……これでよしっ


「ごめーん、遅れたー ちょっと好きな人の事を考えていたら時間すぎちゃってー」


 最後の仲間ストムが到着し相手クランを待つ。数分待つと相手のクランから準備完了の合図が届いた。


「よし、これからクラン戦を始めるぞ。んじゃ、各自持ち場に移動て待機な」

「了解」

「あぁ」

「分かった」

「おk」

「はーい」


 皆返事をし持ち場まで走る。


 俺の持ち場は南だな。敵に見つからないように移動しないと。今回の戦場はごつごつとした岩場がメインとなるマップである。

 ゲームを始めた当初から使用しているマークスマンライフル、それを敵が通るルートに照準を合わせ待機する。

 ピロン、味方から敵を発見したと連絡が来た。敵がいる方向に照準を変え敵を視認する。敵の動きを見て狙いを定める。

 『ダン』

 重い発砲音を鳴らし敵を倒す。


『すまん、やられた。東の――にひとりいる』


 東か。ここからじゃ岩の影になって狙えないな。他の場所を見ておくか。


『こっちもやられた。南西に移動してる』


 段々と南に近づいてきたな。南に来るって事はこの道を通るだろう。


 ピロン、また味方から敵の位置を特定したとの連絡が来た。位置は……

『ガっ』

 後ろから物音がする。

『位置は南、ブラックがいる付近だ』


 やばい、急いで拳銃に持ち替える。後ろを振り向き敵に向けて撃つ。


『バンッ』


 玄の体力が0になった。敵が玄のヘッドを打ち抜いた。


『わるい、俺もやられた。俺が取っていた場所にいた』

 クランの生き残っている仲間に向けてチャットをする。


 玄が倒されてから十分程度で負けが決まった。最後の方は1対3でストムが一人で戦い1対1までに持ち込んだが裏を取られて倒されてしまった。


GGグッドゲーム、とても面白かった、またやろう」


 相手のクランのリーダーからメッセージが届き、クラン戦が終わった。この戦いにおいて何がいけなかったのかを話し合う。

「俺の移動する速度が速すぎたな。そのせいで位置がばれてしまった」

「そうだな、皆の移動速度を合わせないとな」

「あぁ、それで今までずっとキーボードを打って話しているがボイスチャットにするか? そうすれば状況確認を素早く簡単にできるが…」


 ボイスチャットか、そうだな、ボイスチャットだと連絡を取るのも簡単だしな。


「俺は賛成で」

「さんせーい」

「いいぞ」

「どっちでも」

「まぁ、皆がいいならいいけど」


「ブラック、ストム、ふぇえが賛成で、ディディ、侍おじさんはどっちでもいいってことでボイスチャットでやろう。明日までにこのソフトをダウンロードしておいてな」

 クランのリーダー《ウェル》からリンクが送られてきた。


「それじゃ、解散!」


 クラン戦で疲れたしソフトだけインストールしてやめよう。送られてきたリンクに飛びソフトをダウンロードする。ダウンロードが完了しインストールをしパソコンの電源を落とした。


「ふぅ、疲れたし寝るか」


 机の上を片付けてベッドの中に入る。

 玄はとても疲れていたのかベッドに入った途端直ぐに眠りに入った。

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