第4節 グミ抹茶味
とりあえず私は大人数で目立たないように参加できそうなバレーボールチームに入ることを決めて、全員参加競技が決まったところで、会議はお開きとなり、昼休みの時間だ。昼御飯を食べ終わったら、早速バレーボール部員から初心者に向けて練習をしてくれるらしい。バレーボールは何となく見たことがある程度なので正直助かる。目立たないようにはしたいが、足手まといになって周囲に借りを作るのが私は何よりも嫌いだ。
「まこちんはバレー初心者なカンジ?」
「ええ、ルールもよくわかってなくて……」
「だいじょぶだいじょぶ!パスとレシーブだけ覚えりゃ何とかなるっしょ。」
友達と一緒に弁当箱を広げたところで、茨城美姫が近寄ってきた。
「あの、亜久津さん。良かったら一緒にご飯、」
……おい待て、何だこの廊下から聞こえてくる大人数の足音。
「食べ、」
「茨城さあああああぁん!!」
廊下の男子たちが一斉に茨城に声をかけてきた。うわ、なんだあの大人数。みんなピンク色の法被に鉢巻きをつけている。あぁ、あれが茨城美姫のファンクラブなのか、なるほど。何人かが手に持ってるのは……録音機械?
「茨城さん! 僕らフアンクラブは茨城さんの応援がこの2年D組だけに限られるのを憂慮しております!」
「茨城さんの応援は百人力! これでは優勝はこのクラスに決まってしまうも同然!」
「当日、すべてのクラスを応援してほしいなんて無理は言いません! どうか、今のうちに全クラスへの応援メッセージを録音させていただけませんか!」
気持ち悪いなこいつら……ほら見ろ茨城も困ってるぞ。
「わ、私で良ければ……」
断れよ。これから弁当食べようとしていたところだろう。やれやれ仕方ないな。
「ねえ、それ今じゃないと駄目なのかしら? 茨城さんだってお腹空いてるのよ。」
軽くたしなめると、ファンクラブの連中は、驚いたように、ちょっと静かになった。そこで茨城が、「お昼より放課後の方が都合がいいかも……」と遠慮がちに言うと、連中は納得したようすで、すごすごと引き上げていった。まったく騒がしい。
「あ、ありがとう亜久津さん……。」
何故か頬を染めながら茨城が礼を言ってきたがたいしたことはしていない。
「マドンナも大変だね~あ、今朝コンビニで季節限定のグミ買ってきたんだけど食べる~ぅ?」
友達にグミを1ついただいた。
5月限定抹茶味のグミか……攻めたな。
ちらと周防の方をみてみると、転校生にみんな興味津々のようで、彼の周りに男子達が群がっていた。
「周防くん、こっちでは野球部入らないの?」
「ええと、前の学校も野球部だった訳じゃなくて……必要に刈られたときに振ってたというか……」
「助っ人的な感じってこと? すげー。」
「今は何部に入るかはまだ決めてなくて……」
「ねぇ、弓道なら初心者歓迎だからやってみない?」
なんだ、人気者じゃないか。
「そういや、剣持。脚に自信がないってさっき言ってた気がするんだけど何かあったのか?」
おい、いきなりか周防。
剣持もまさかいきなり初対面の転校生に話がふられると思ってなかったのだろう。ちょっと困ったようすで苦笑いした。
「うん、去年交通事故に遇っちゃって。さいわい軽傷で済んだんだけど、その時に脚ケガしちゃってさ。陸上はできなくなっちゃったんだ。」
……そうか。帰宅部だったのはそういう理由だったんだな。
……まあ、私には関係のないことだが。
「まこちん? どーしたの」
友達に声をかけられてはっとした。いかん、呆けていたようだ。
「ごめん、何でもないわ。いただきましょう。」
母が作ってくれた弁当を食し、もらった抹茶グミをひょいと口に入れた。……うん、よく挑戦したな、とだけ言っておこう。
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