第3節 監視対象:周防来夢

 転校生の前世が下級魔族だった。しかも、前世の記憶を覚えているらしい。どうやら向こうは私を見て、正体に勘づいたらしい。

 そして、この学校にやってくる前には暴力行為を日常茶飯時としていたらしいことは、彼……周防来夢を一目見た瞬間にわかってしまった。

 変に畏まられては怪しまれるので、私とは初対面だと思えと文字通り念を通しておいたが、おい、ちょっと見てるだけでビビりすぎだろ大丈夫かコイツ。

 見たところ、たいして度も入っていない眼鏡をかけ、髪も真っ黒に染めて、真面目な生徒を装っているようだ。しかし、どうにも短気な魂の持ち主らしい。たぶん前世でも短気が祟って死んだタイプなんだろうな、スライムの親玉ごときの死因などいちいち覚えていないが。

 本当に真面目に生きていくつもりなら、私は応援するが、もし問題を起こすようなら、即刻出ていってもらうぞ、周防来夢。


「えー、周防くんが来て早々ですが、近々体育祭があるので、今日はその話し合いをしたいと思います。」

 学級委員が黒板の前で声をあげた。うちの学校は5月に体育祭を行うのだ。

「ねーねーまこちんは何の種目出るの?」

「うーん、そうね……」

 体育祭か。要は競技大会というわけだが、参ったな。

 私は運動は得意だ。得意というか、ちょっと手加減してもオリンピックに出場できるレベルの特異な記録を弾き出す恐れがあるので、普通の女子高生の平均記録に合わせるのに相当気を使うのである。

「そう言えば剣持ってめっちゃ足早かったよな! リレーとかどうよ!?」

 男子生徒の一人が私の隣の剣持勇也に話しかけてくる。へぇ、そうだったのか。

 しかし、話しかけられた剣持の顔が一瞬曇った。

「あ……いや、ごめん。俺、脚は自信ないや……。」

 なんだ、どうしたんだ……?

 剣持に話しかけた男子もきょとんとしていたが、他の男子にたしなめられて、ごめん、と謝っている。何があったんだろうか……。

「ねえ、周防君は何か得意なスポーツある? 前の学校で何やってた?」

「俺は……前の学校ではバット振ってたけど……」

「野球部!? カッコいいじゃん! じゃあ周防君は野球メンバーね!!」

「あ、ちょっ、」

 ……おい、周防。お前の言うバットって釘が無数に突き刺さってるアレだろ。用法を著しく間違えた破壊用のバットだろ。ルール知ってるのかお前。あっ、て言ったな今。

 まぁ身から出た錆だな。うん、精々気張るが良い。とりあえず私は、周防が問題を起こさないようにしばらく遠くから観察することとしよう。



 

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