第2節 元スライムヤンキー、びびる

前略、前世でお世話になった母さん、元気ですか

 俺は前世の記憶を思い出して、現世で更正しようとした転校先で元上司と出会ってしまいました。俺はもうダメかもしれねぇ。

 しかもよりによって転校初日の席替えで、彼女の隣になってしまった……ヤベェ変な汗が止まらねぇ。

「はじめまして、私は亜久津摩子です。よろしくね周防くん。」

 そう言って彼女がにこやかに右手を差し出してきたので、あれっもしかしてさっき睨まれたのは勘違いで、やっぱり向こうは前世の記憶なんて持ってねぇのかなって恐る恐る手を握り返したら、その瞬間に念が伝わってきた

『いいか、私とは今日が初対面だ。ちょっとでも知り合いだという空気を出したらお前を消す。あと、ここでは真面目に生きることだ。私の平穏を乱すようならすぐに消えてもらうぞ。』

『…………ひゃい。』

 前世の記憶が戻ったせいか、この人が笑顔を浮かべながら送ってくる強い念をビリビリ感じる。真面目に生きるつもりでここに来たことは確かだけど、俺は普通の高校生活を送りたかったのに毎日この人の隣じゃ生きた心地がしねぇよ……さよなら俺の青春……

「せ、先生! 周防くん、あんまり後ろだと黒板の字が見えづらいんじゃないですか!?」

 一人の男子が、突然手をあげて思いきったように言った。

「良ければ、僕変わりますけど!」

「え、そうなのか、周防くん。」

マジかよ……ソイツの言葉が福音に聞こえた。でも良いのか、その、今となりにいるイバラキとかいう女子の隣を狙って男子が激しい攻防を繰り広げていたと思うんだけど。

「……良いのか?」

「うん、周防くんさえ良ければ!」

「えっ、ちょっと剣持くんズルい…」

 なんかイバラキがぽつって呟いた気がするけど助かった~~~!! 同じクラスにいるのは変わらねえがだいぶ緊張が解けるってもんだぜ。

 剣持という男子も、なんとなく嬉しそうな様子で俺と席を交代した。

「あ、私、茨城美姫です。よろしくね。」

うん、こっちの女子は普通だ。変な念とか送ってこない。よかったよかった……!?

 殺気を感じて思わず振り替えると、剣持以外の男子がこちらをじっと睨んでることに気がついた。そして、亜久津と名乗る元上司もこちらを監視するように見つめている……不良のメンチに比べたら男子の睨みなんて気になんねぇが、やっぱ亜久津さんの目線めっちゃ怖え……

「なんで女の子の隣って女の子じゃダメなんだろ……いいなぁ剣持くん……」

 イバラキが何か独り言を呟いていたが俺にはよく聞こえなかった。



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