第2節 監視対象:茨城美姫

 茨城 美姫は可憐な乙女である。

雪のように白い肌に、ふんわりとした印象の栗色の髪に(特に染めたりパーマをかけたわけではなく天然らしい)、大きな瞳、薄紅色の唇をもつ華奢な少女だ。異種族である私から冷静に見ても、美しいと判定できる。

 彼女は誰に対しても常ににこやかで、クラスの、いや学校の人気者だ。

 一年生の初めの頃は、何人もの男子生徒から交際を申込まれていたが、すべて断ったらしい。何故過去形かというと、去年の秋頃に茨城美姫のファンクラブが作られて以来、彼女に勝手に交際を申し込むのは禁じられるようになったのだとか。ちょっとした女神信仰に通じるものを感じるな。

 このように非常に男子に人気のある彼女だが、嫌味なところや高慢なところがないので、同性にも慕われているそうだ。もし彼女を嫌う人間がいたとしても、それを公言しようものなら、逆にそいつが彼女を慕う人間たちにボコボコにされるだろう。

 だが……何なんだろうな、この違和感は。 

 私が彼女に初めて出会った時の印象は「常に不安を抱えている」魂の持ち主だ、だというものだった。

 我々魔族は人間を見るときに、姿形よりも前に、まずその魂を視る。高級な魂は魔族にとって格別な馳走だからだ(でも私はプリンの方が美味だと思うので今は全く興味がない)。

 茨城美姫は……そのにこやかで優しげな笑顔とは裏腹に、ひどく自信のない、不安定な魂を抱えている。こんなにも平和な世界で、あんなにも皆に好かれているのに、彼女は一体何におびえているのだろうか。

 本来なら、どんな人間がどんな魂を持っていようと、これからこの世界で人間として生きていく私にはどうでもいいことだ。

 だが長年、魔王の下で働き続けた勘とでもいえばいいのか、とにかく剣持勇也の件が一度落ち着いた今、私は茨城美姫の存在が妙に引っ掛かっているのだ。

 しかし、剣持勇也のときのように、彼女が何か妙なものを持っている様子はない。しばらくは様子を見るべきか……。

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