第二話 亜久津さんと学校のマドンナ

第1節 亜久津さんは恋愛感情がわからない

この世界の17歳の多くは、恋愛のことで頭がいっぱいらしい。

人間の身体機能の成長を考えれば、なるほど、ちょうど繁殖期のピークかと納得する。

現に、元の世界の人間は15歳から18歳の間に結婚するものが多かったようだ。

こちらの世界でも、男は18から、女は16歳から婚姻することが法律で認められている。

だが、私が通う竜胆高校の場合は、18歳までの間に男女が婚姻を結ぶことは稀であり、様々な人間に恋に落ちては些細なことで冷めて、また新しい恋に落ちてを繰り返す者が多いようだ。そもそも、まだ自立できるだけの経済力がない子供がほとんどなので、恋に恋している時期、と言って良いのだろう。


そんな恋に恋する乙女達が、今日はいつも以上に騒がしかった。


「ねぇねぇ、まこちん~」

「昨日剣持の家に行ったってほんとなの~!?」

「もしかしてだけど勇也くんと付き合ってるの!?」

「ていうかぶっちゃけどこまでいった!?」

彼女達が脈絡なく騒ぎ立てている内容をまとめると、昨日、剣持勇也の実家のケーキ屋に向かって、彼と私が一緒に歩いているのを見かけた者がいたという。二人きりで一緒に帰ったということは、恋人関係にあるのではないかと、彼女たちは悪意なくはしゃいでいるらしい。まったく。そんなことでいちいち騒ぐんじゃない。

 内心、そう思いつつ、私は少し困ったような様子を伺わせる絶妙な笑顔を作り、乙女たちに答えた。

「私、甘いもの好きだから、剣持くんのお家がケーキ屋さんだって聞いて、お邪魔しちゃっただけなのよ。剣持君はただのお友だちよ? 」

「ええっ、ほんとにーぃ?」

「ええ、そんな噂が立ってるなんて……剣持君に迷惑じゃないかしら。なんだか申し訳ないわ。」

 よし、この対応で完璧なはずだ。立ち去れ、噂好きの乙女達よ。

「じゃあさ、他に好きな人とかいないの?」

 止めろ、お前らの恋愛脳に私を巻き込むんじゃない。

「うーん、私はまだそういうのは早いかな?」

 私は笑みを崩さずに曖昧に返事をした。

 この私が人間の男と恋愛なんてできるはずが無いだろう。そもそも人間とは種族が全く違うんだぞ。……まぁ、元の世界で人間と魔族が子を成した例は無くはないらしいが、異端だと忌み嫌われている。

「ところでさー、茨城さんってホントに彼氏とかいないのー?」

 乙女たちの興味は、急に私から離れて、学校のマドンナと呼ばれている茨城美姫(いばらき みき)の話題に移った。仲間たちに突然話題を振られて、茨城美姫はびっくりしている。

「え、えっと、私は、その……」

 どうした、さっきまで私にはノリノリで質問してきたくせに。まぁ実際、彼女たちも自分のこととなると恥ずかしがってはぐらかしたり戸惑ったりすることが殆どだろう。かわいいもんだ。

茨城美姫が質問に答える前にチャイムが鳴り、乙女たちはそれぞれの席に戻っていった。やれやれ。

 私の斜め前方に座る剣持が何か言いたそうな顔をしてチラチラとこちらを見ていた。

教室で猫をかぶってる私の様子を見て、きっと違和感を感じているのだろう。文句なら後でいくらでも聞いてやるから、黙っていてくれ。私は普通の人間として周囲と波風たてずに生きたいんだ。

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