デストメテル

 ゼウシュトルムに乗るリンドの元を離れたアレンは、後方にいる救援部隊へと向かっていた。また、その様子を飛行艇の中にいるラドルス達はモニター越しに見ていた。

「テロリストの機体の一機がこちらに向かっています!」

「迎撃を」

「イエッサー!」

 オペレーターの指示通りに動き出したシュナイダー部隊はそれぞれ武装を構えてデストメテルを迎え撃とうとする。さらに構えた武装から数々の弾丸が斉射され、デストメテルに襲い掛かった。

「!」

 すると前に出ていたアレンは、デストメテルの両腰に装着させている拳銃に似た小型のライフルを取り出し、その場で急停止しながら拳銃を構えてビームの弾丸を撃ち始めた。

 多数の実弾が襲い掛かる中、アレンは迫る小さな弾丸を躱しつつ、威力の高いと思われる実弾を拳銃で撃ち、自身に届く前に破壊する。

 さらには弾丸を正確に選別し、さらには一ミリも狂うことなく撃ち落としていき、一部の空間には爆発による球体が浮かび上がっていた。

『何ッ、我々の攻撃が届かない!? 何なんだ、コイツは!?』

『!?』

 先の斉射を捌かれたことにアドヴェンダー達が驚きを見せる中、アレンはデストメテルの左背面部に搭載された武装を前面に展開させる。その前面に展開された武装は六つもの銃口が円形のガトリング砲であり、デストメテルがそれをシュナイダー部隊に向けると銃身部が唸りを上げながら回転し始めた。

『! か、回避ッ――!』

「もう遅い!」

 身の危険を感じ取ったアドヴェンダーの一人が周囲にいる味方に向けて、回避を促す。しかし、その言葉は届くことなく迫る暴虐の嵐にかき消されることとなった。

 回転される銃口から放たれる数百発もの弾丸が嵐となって、眼の先にいる敵に吹き荒れる。その嵐の中から飛び出てくる弾丸はディルオスをハチの巣状に撃ち抜いていき、回避すら間に合わず、ただ的とされていく。

 また、その嵐が扇状に動き、その扇が開く線の上に跨るディルオスを次々と巻き込んでいった。

「…………!」

 その中にレギルが乗るヴィルギルトも含まれていたが、レギルがその直前に吹き荒れる嵐の暴風圏の外に逃れることで一応回避は行うことができたのである。もっとも、その嵐が命を吹き飛ばす様を間近で見ることになり、息を飲むことしかできなかった。

 ガトリングの銃口から弾丸が途切れ、嵐が止むとハチの巣にされたディルオスは次々と爆散していった。

「「「「「!」」」」」

 ガトリングによる暴虐の嵐が止んだ後、空に浮かんでいたディルオスの姿は一機も跡形も残らず消えていった。足元にいたフライトベースも嵐に巻き込まれたようで、ディルオスともども姿を消した。

 それをモニターでただ見つめるしかなかったラドルス達の表情は驚愕に包まれた。

「そんな……我が部隊が一瞬で……!」

「…………」

 未だに信じられない様子を見せるアイオス。それに対し、さっきまで余裕を見せていたラドルスの表情に曇りが生まれていた。

 万全の態勢で救援に来たはずなのに、いつの間にか追い詰められているかのような気分であり、雲行きが少しずつ怪しくなっていくことにラドルスは無言のまま何かを考え始めていた。

 一方、デストメテルの攻撃を躱していたレギルも驚きを隠せずにいた。

「テロリストのくせに、なぜここまでの技術が!? いったい誰が後ろ盾を……?」

 ゼウシュトルムがワイバロンに乗るアレスタン相手に善戦していることや、先程のようにシュナイダー部隊を一瞬で沈黙させることなど、レギルは現実を疑いたかった。

 しかし、あれだけの性能を引き出すより、それを作り出す者が後ろに控えているなら話は別である。どんな兵器でも作り出せる者がいなければ、テロリストは行動すら起こすことができない。ここで蜂起したということは、それが裏付けされている可能性が十分にあった。

『そんなのはどうでもいい。撃退させれば知る必要はないから』

「エリス!」

 帝国の専属騎士であるエリスがレギルに話しかける。レギルが振り向いたその先に、彼女が乗る薄いピンク色のシュナイダー、ディノハウンドが空に浮かんでいた。

「大丈夫だったか?」

「別に何ともないわよ。これくらいじゃ、この子がくたばるわけがないし」

 この子というのは、エリスが乗るディノハウンドのことだろう。

 明らかに全身が装甲に包まれており、弾丸すら跳ね返そうな堅牢さが目につく。もっとも、色がピンクという派手なカラーリングがそれを助長しているが。

 また、その内部に搭載されたスラスターとフライトシステムにより単独飛行を実現させている。ただ、機動力が他の機体より素早く動けないため、先程の攻撃はかわすことができなかったようだ。

 しかし、この機体に導入された武装を使用してやり過ごしていたため、無傷の状態を維持していた。

「さっさとやるよ!」

「もちろんだ……ん?」

 エリスと共に、眼の先にいるテロリストを撃退しようとしていたレギル。その彼の目の前にいたテロリストが視線を何やら地面に向け始めた。

 彼もそれに沿うように目を向けると、そこにクレイオスをはじめとする地上部隊がアルティメスとポセイドーガと対峙していた。

「?」

『ちょっと!』

「!」

 ほんの少し目を逸らしていたレギルが視線を元の位置に戻すと、デストメテルが行動を起こしていた。

「せっかくだから、コイツを使うか」

 機体の右背面部にある武装が展開され、折りたたんでいた銃身が繋がる。その繋がった武装は機体の全長以上の滑空砲、しかもリボルバー式の弾倉であり、左背面部にあるガトリング砲とは明確に作りが違っていた。

 アレンはその長い滑空砲をデストメテルの右手で操作し、銃口をヴィルギルトとディノハウンドへと向ける。

「「!」」

 銃口がこちらを向けていることから、狙われていることを察したレギルとエリスは、すぐさまデストメテルを止めようとスラスターを展開、加速させる。二人が距離を詰めようとしたその時に、四つの奔流が両者の間を割っていった。

「何だ⁉」

「! あれは……!」

 今の攻撃の正体を探ろうとしたレギルが目にしたのは、地上から浮かんでくる赤いシュナイダー、ヘパイスドラグだ。背面部に集中されたスラスターが機体を浮かばせる。

「もういっちょ!」

 ヘパイスドラグに乗る紅茜がその両手に持つライフルの銃口、さらには両肩から伸びる砲塔、合わせて四門の銃口が二機のシュナイダーを捉え、先程と同様の砲撃を行った。

 四つの奔流が二機に向かっていき、二機はその射線から同時に外れる。しかし、これによりデストメテルとの距離が未だに離れたままだ。さらにへパイスドラグがデストメテルと合流する。

「遅いぞ」

「ゴメン、ゴメン。ホントはルーヴェ達の救援に行っていたんだけど、向こうからこっちに向かってほしい、ってね」

「……まあいい。おかげで、狙いやすくなった!」

「「?」」

 滑空砲の銃身を対峙している二機のシュナイダーから別の方向へと向けるアレン。

 その狙いがなぜか外されたことに疑問を浮かべるレギルとエリスは、その銃口が向けられている所に視線を向けると、そこはレギルが目にした先程と同じ場所だった。そのデジャブを感じたレギルは、これから起きる出来事を察してしまった。

「まさか、狙いは――」

「撃つ」

 ――ドォォン!

 アレンが引き鉄を引くと同時に、滑空砲から発射された弾丸は一瞬で地上へと進み、ヴェルジュがいる場所まで近づいた。

 このままヴェルジュに向かうかと思われたが、弾丸はその後方にいたシュナイダー部隊に向かっていた。


 ちょうどヴェルジュがアルティメスに向かって進軍を開始させようとした時、正面にあるレーダーが上から来る反応を捉えた。

「? ッ――!」

 ヴェルジュがその反応がある先に目を向けると、一発の弾丸がこちらに向かっているのを目撃し、眼を大きく開かせた。

『全軍、この場から散れ! 今すぐ!』

「「「「「!?」」」」」

 ヴェルジュの突然の言葉に疑問を浮かべたヴェリオットとグランディ、そしてアドヴェンダー達だったが、レーダーに映る危機をその目で見ると、一目散に散らばり出した。

 しかし、部隊が散らばりかけたその時に弾丸はスピードを維持したまま地面に直撃し、轟音と共に大きな爆発が起きた。それによって生んだ爆風が周囲に広がり、その近くにあったビルの窓ガラスが一瞬で粉々に割れ、道端に転がるゴミともども障害物のない所を進んでいった。

「ドォア!?」

 ただ、爆発の中心にいた機体はそのまま巻き込まれて爆散し、また別のディルオスは爆風に煽られ、風に煽られ、地面に転がっていく。

「お前達!」

「「ハッ!」」

 当然、その前にいたクレイオスもその爆風に煽られたかに見えたが、寸前で僚機と共に前進する。このまま敵に近づこうともしていたが、その姿が既に見えないことにヴェルジュは舌打ちをしながらも、猛スピードで爆風が及ばない街角に逃げ込もうとする。

 しかし、爆風の方が早く、数秒後には煽られるのは確実だった。それを早期に悟ったヴェルジュはヴェリオット達に呼び掛ける。

「…………! ヴェリオット、グランディ! 一回立ち止まってその場で耐えきるぞ!」

「ですが……!」

「このままでは間に合わん!」

「「イエッサー!」」

 指示を受け入れたヴェリオット達と共にヴェルジュは一旦その場で急旋回する。そして、三人はそれぞれ爆風に倒されないように身を構え、襲い掛かってきた爆風を迎え撃った。その後、爆風が三機を通り越した。

「…………!」

 爆風がヴェルジュ達に襲い掛かる。クレイオスの左腕に装着させているシールドで防御し、身を低くした状態で踏ん張らせているが、その衝撃までは殺せず、シートの背もたれ部に打ち付けられる。

 また、強烈なGが襲い掛かっているため、彼女自身の意識も今にも飛びそうであり、一瞬でも気が失わせまいと必死で意識を保たせていた。もちろん、両側にいる二人も同様である。

 ちなみに、先程までヴェルジュ達と対峙していたアルティメスとポセイドーガの二機は既に、ビルより高い位置の空に避難して爆発から遠ざかっていた。もちろん、二機が使用していたブリッジも閉鎖させている。

 そのため、爆風で飛ばされたディルオスなどはブリッジにまで到達されることはなく、両側にあるビルや小さな建物などにぶつかったり、バランスを崩して地面に転がったりと散々な目にあわされていた。おそらく、戦闘よりも甚大なダメージが機体に負荷をかけているだろう。

 その様子をじっと見つめていたルーヴェ達はこの爆発が、アレンがもたらしたものだと瞬時に理解した。

「うわ~。街中でやるなんて、鬼畜ね~」

「まあ、この方がより敵を叩きやすいからな。この街中だと逃げ場もほとんど限定されやすい」

 ルーヴェの言う通り、ヴェルジュ達が集結していた地点は高層ビルなどが並ぶ場所である。住宅街と同様に建物が密集しているため、車の通り道も指の数程度しかない。

 そこに爆発が起きれば、主に通り道に、爆発による余波が拡散されることなく集中し、到達速度も上がる。まさかこの場を強襲されるのはヴェルジュ達も予想外だろう。

 その爆風が弱まり、残ったのはディルオスの残骸と思しきボロボロの鉄クズが多数、ところどころに散乱し、奇跡的に形を保っていたものは、一ミリも動くことなく横たわっていた。後は、爆発から逃れた機体と、爆風に耐えきったヴェルジュ達のみである。

『もしかして、狙ってた?』

「まさか。それなら、この爆発を起こしたアレンに聞いてくれ」

『は~い』


 一方、地上で起きた爆発を空から目にした紅茜達も同様に目を丸くしていた。

「うわぁ……。ド派手ね、アレン」

「密集していた分、かなりのダメージを与えられた。後はルーヴェ達に任せるさ」

『お~い』

「リーラ?」

『やっぱ、狙ってたでしょ? あんな正確無比な射撃はアンタしかできないって』

 リーラからの通信に、アレンは「フッ……」と鼻で笑った。その反応に彼女は、やはり狙いすましたものだと確信に至った。

『リーラ、紅茜。お前達は地上でヴェルジュ達を鎮圧させろ。空は俺とアレン、そしてリンドで対応させる』

「「「了解」」」

 ルーヴェの指示に従った三人は、それぞれ自分が担当する戦場へと移動し始める。それをただ見守るしかなかったレギルは、地上で起きた惨状に怒りを込み上げていた。

「ふざけた真似を……許さん!」

「待て!」

 怒りをあらわにしたレギルはエリスの制止を振り切り、スラスターを噴射させて突進する。背中から伸びるスラスターウイングにある二本のシュナイド・ソードを手に取り、自身と同じ空に浮かばせていたアルティメスに斬りかかった。

 しかし、それよりも先に剣を抜刀していたアルティメスは、刃先を向けてシュナイド・ソードを防御する。

 その剣筋に込められたレギルの感情を知ったのか、「フッ……」と余裕の笑みを浮かべて、防御に回していた剣を振り払い、ヴィルギルトとの距離を置かせる。

 ルーヴェは「レーダーに何かが近づいてくることを知ると、その後ろにいたアレンは背中から振り向いた。

 そこにリンドが乗るゼウシュトルムと戦いを繰り広げていたワイバロンがこちらに迫っていた。

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