第81話 ソランとラドゥケス
イラステーが泣き止むのを待ってからソランは彼女を婚約者の元へ送り届けた。
ラドゥケスは晩餐を抜けてイラステーを探していたところで鉢合わせた。一緒にいたのがソランであることに驚き、そしてイラステーの目が腫れていることに気づくとソランを睨みつけた。
「どういうことだ。」
ラドゥケスの声は怒りで低まり、イラステーを引き寄せる。
「申し訳ございません。貴殿の婚約者を傷つけたのは私でございます。」
そう言いながらもラドゥケスを見るソランの目はさほど謝意が込められていなかった。
「何をした?
まさか…」
ラドゥケスはそう言いながら手を剣に伸ばした。
イラステーはそこで意識を覚醒させ、ラドゥケスの手に両手をかけて叫ぶ
「何もされてないわ!ただ話をしていただけよ…!」
ラドゥケスはイラステーに視線を向ける。
「じゃあ、なぜ泣いているんだ。」
イラステーはひるんだ。
「それは…」
「私の思いを伝えたのでございます。」
イラステーはソランを見た。
ラドゥケスもそれに倣う。
「お前…」
「きっぱりと断られましたが。」
ソランは落ち着いた声で告げる。
「将軍の婚約者にたいする無礼、申し開きのしようがございません。罰は何なりと。」
イラステーはソランを見て驚いた。
彼は挑戦的とすら思える笑みを浮かべていたのだ。
ラドゥケスは目を眇めた。
しばらく間を置いて、押し殺したような声で言った。
「二度目はないぞ。」
そう言うと踵を返し、イラステーを引っ張っりながら歩き出した。
イラステーはソランから目を離せなかった。
ソランもまたイラステーを見ている。そして口を開いた。
「彼女をよろしくお願いします。
不幸にしたらあなたでも許しませんよ!」
ソランがそう言い放つとラドゥケスは振り向きもせずに怒鳴った。「お前に言われなくてもわかってる!」
イラステーは最後までソランを見ていた。
ソランは優しく手を振っていた。
いつも出掛ける時はそうしてくれていたように。
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