最終話
イラステーはラドゥケスに導かれるままある部屋に入っていった。
そして手を引かれるまま一緒にカウチに座った。
「本当に大丈夫か…?」
ラドゥケスが優しく背をなでる。
イラステーは何度も頷いた。
「ええ、大丈夫」
涙をぬぐう。
ラドゥケスはイラステーは抱き寄せて頭にキスをした。
そして強く抱き締める。
「ならいいんだ」
イラステーはしばらくその抱擁に甘えた。
だが急に不安になり顔を上げた。
「ラドゥケス、ソランに何もしないよね?」
ラドゥケスは驚きで目を丸くし、その後顔をしかめた。
「あんなことくらいで?
イラステー、俺はガキじゃないんだ。」
心外だ、とばかりに答えた。
「だってさっき剣を抜こうとしてたじゃない!」
「あれはお前が何かされたのかと思ったからだ。」
ラドゥケスは心の底から心配そうにイラステーを見て、頬に手を添えた。
イラステーは唐突に今のこの状況を把握した。
部屋に2人きりで、しかもお互いの心臓の音が聞こえる程傍にいるのだ。
イラステーはラドゥケスから少し距離をとった。
「ソランがそんなことするわけないじゃない!」
「わからないだろ。ソランも男だ。」
ラドゥケスは苦笑交じりに言った。
「ソランはそんなことしない!」
イラステーはそう言うとラドゥケスの鳩尾を軽く拳でついた。
だがラドゥケスの反応は速くすぐに手首を掴まれる。
「本当に我が姫は常に戦闘態勢だ」
そい言うと、その手首をひいてイラステーを引き寄せた。
イラステーがあ、と声を漏らす間もなくラドゥケスに唇を塞がれる。
イラステーは反射的に体を放そうとしたが、ラドゥケスの腕がそれを許さなかった。
いつの間にか唇の感触に体が支配されイラステーは抵抗することを忘れた。
その体の芯が痺れるような感覚に溺れる。
イラステーが大人しくなるとラドゥケスはキスの下で笑みを作った。
「これが気に入った?」
イラステーは大きく息を吸った。不慣れなあまり呼吸を忘れていたのだ。
「息ができないこと以外は…」
ラドゥケスは笑った。
「慣れるさ。」
そう言うとイラステーを抱きしめた。
「全てうまくいく。」
「全て…?」
「全てだ。」
ラドゥケスはイラステーの右肩で頷いた。
イラステーもラドゥケスを強く抱き返す。
全ては家族のことだろうか、ソランのことだろうか、私たちの結婚のことかもしれない。それも含めて全てなのかもしれなかった。
何にしろ、彼がいれば全てうまくいく気がした。
「今夜はここに泊まるといい。」
イラステーは勢いよく体を放した。
正確にはラドゥケスが腰を離さなかったので、少し隙間が空いただけだが。
「それはできないわ。許可なく領主館に泊まるなんて!」
「ここは俺の部屋だ。誰を泊めようと俺の勝手だ。しかも婚約者を泊めるのに何の問題がある?」
「問題大ありよ!」
イラステーは大いに慌てた。
ラドゥケスは悪戯な笑みを浮かべる。
「何が問題なんだ?」
「それは…」
「まぁ俺も男だからな。何も起きないとは保障できない。」
イラステーの顔は真っ赤になった。
しかしある考えが浮かび、気持ちを落ち着かせた。
「いいわ、ここに泊まる。」
そう言ってイラステーはきちんとカウチに座りなおした。
豹変した態度にラドゥケスは眉を顰める。
イラステーはラドゥケスを見た。
「一晩中あなたと話がしたい。私がいない間のあなたの物語を聞かせて。」
「それは都を出発してからの話か?」
「あなたが生まれてからの話もよ。」
イラステーが今度は悪戯な笑みを浮かべた。
「ラドゥケス少年の物語は1晩で終わるかな。」
「大丈夫よ。時間はたっぷりあるもの。」
「それまで俺は婚約者に触れられないわけか。」
「その次は私の物語よ」
ラドゥケスに伝えたいことがいっぱいあった。
エタンキアがイラステーに残したものを知れば驚くかもしれない。私には母が2人いるのだ!
イラステーは笑いながらラドゥケスの首に腕を回した。
「その次は?」
ラドゥケスがやれやれと首をふる。
イラステーはお互いのおでこをつけた。
「決まってるじゃない。」
イラステーは、ちゅっとラドゥケスの唇にキスをした。
2人のこれからの物語よ。
~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~
長い時間お付き合い頂きありがとうございました。
はじめての小説なので、つたない文で申し訳ありませんでした。
新しい小説も進めながら、この作品もちょっとずつ直していこうと思っています。
できればイラステーとラドゥケスの幸せな話(後日談?)的なところも
追いかけれたらと思います。本編があまり恵まれていないので…
また何かご感想やアドバイスやご指摘など頂けるとうれしいです。
真摯に受け止めてこれからも書き続けられたらと思います。
読んでくださった方々本当にありがとうございました。
檀上 愛
海と平原の風 壇上あい ダンジョウアイ @luv
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