第76話 お迎え

居間に行くとセラとホムニスがいて、驚いたことにラドゥケスが到着していた。

イラステーは不意を突かれて固まり、ラドゥケスもイラステーの姿を見て一瞬面食らったようだったが、すぐに破顔した。

「戦いの女神は美神だったか!」

イラステーは耳まで真っ赤になった。

「その言い方、好きじゃない…!」

「いや、イラステーは俺の守り神だからな。

さぁ行こう」

「お姉ちゃんとってもきれい!」

「楽しんできてね。」

セラもホムニスも笑顔で送り出してくれた。

ラドゥケスが馬上から引っ張り上げてくれる。

家から館まではあっという間だったが、イラステーはラドゥケスにもたれながらずっとこの時間が続けばいいと思った。

館が見えると緊張感がどっと増す。

イラステーは知らずにラドゥケスの服を握りしめていた。

ラドゥケスはそれに気づいてかイラステーを囲う腕を自らに寄せた。

「すまない。無理をして来てくれたんだな。」

イラステーはラドゥケスを見上げ、ラドゥケスが視線を下げる。

「俺が傍にいる。」

イラステーはほっとして顔を緩めた。

ラドゥケスはそこでふっと笑った。

イラステーはその笑いの意味がわからず瞬きして彼を見上げると、その疑問を読み取り、答えてくれた。

「お前には申し訳ないが、ようやく正式に婚約者を紹介できるのだと思うと嬉しくて、そんな自分に呆れて笑った。」

なんだかこそばゆくてイラステーは身じろぎした。

「動くな。」

ラドゥケスの突然の硬い声に緊張感が走り、肩を強張らせる。

ラドゥケスが何か危険なものを発見したのかと身構えたが、上から大きな溜息が落ちて来た。

「メラタイからの俺の禁欲生活を教えてやりたい。」

イラステーはしばらく言葉の意味を考え、やっと理解したところで動きを止めた。

どうしてそんなことになっていたのか知りたいような気もするが、今は聞くのが怖かった。

イラステーはとにかく体を安定させることに集中した。

だがそう意識したところで門へ辿り着いてた。

ラドゥケスは馬上から門番に声をかけて通してもらった。

中で馬を預けると、2人は歩き出した。

「さてお姫様、準備はいいかな?」

イラステーはぎこちなく笑った。

すると突然、頭上から輪のようなものが通された。

胸にたれた重みを手のひらにのせると、細い金細工の首飾りに美しくカットされた石が輝いていた。

「可能の石…」

イラステーが呟いてラドゥケスを見た。

「職人に作らせた。

女神の目には大きすぎたから割ったんだ。その片割れだ。」

ラドゥケスとの出会いを思い出させる素敵な贈り物だった。

イラステーはそれを胸に大事に抱いた。

「ありがとう。」

ラドゥケスは微笑んだ。

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