第75話 支度
長い時間、フェモラはイラステーを抱きしめてくれていた。
ぽつりとホムニスさんにこのことを話していないのだと呟くと
フェモラは遠くを見つめて何かを考え、今はまだやめておきましょう、と答えた。
イラステーが落ち着いた頃を見計らって、フェモラは晩餐の衣裳について尋ねた。
空気を変えようと思ったのかもしれない。
イラステーは今はまだ何も考えたくなかったが答えないわけにはいかず
お祭りでいつも来て行くキトンを着ていくことを伝えた。
それがイラステーの持っている一番いい服なのだ。
フェモラは自分が髪を結うと言って聞かなかったので、支度の時にまた部屋を訪れることを約束した。
イラステーがフェモラの部屋から出てくるとホムニスとセラは心配そうにイラステーを見ていたが、イラステーは心配させまいと少しだけ微笑んで家の仕事を始めた。
そんな様子を見て2人もそっとしておいてくれた。
伸びた髪は母が髪紐で綺麗に結い上げてくれた。
父が生きていた頃はこうして女の子らしくしていたことを思い出す。
「懐かしいわね…。
こうしてあなたの髪を触るのはいつぶりかしら…。
父さんが無くなってあなたが働くようになってから、髪はずっと短かったから…」
イラステーはエオナイから戻ってから髪を切っていない。
母はその理由を聞かなかった。
訓練に出かけないことについても尋ねてはこなかった。
「金の髪は、父さん譲りね…本当にきれいよ。」
イラステーは母の手が離れると、向き直った。
「変じゃない?」
母は元気だった頃のように微笑んだ。
「とってもきれい。どこへ出ても大丈夫。」
イラステーは久しぶりに自分の髪が好きになれた。
母はイラステーの両手をそっととった。
「領主様にマルケ様のことを聞かれるかもしれない…。
でもシーラリス様がついて下さるから大丈夫よね。
きっとソランもいるし…」
母はイラステーの不安を感じ取っていたのだ。
また泣きそうになったがなんとか我慢する。
イラステーは言葉にならないかわりに母を抱きしめた。
「いってらっしゃい。」
イラステーは頷いてからゆっくりと体をはなし、部屋を出た。
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