第22話 再会2

扉をノックする音がした。イラステーはうとうとしていた頭を起こした。

気づけばレアソンが取り次ぐために立ち上がっている。イラステーは眠ってしまっていたらしい。辺りを見回して状況を把握すると慌てて飛び起きた。

不覚にも殿上人の前で眠りこんでしまったのだ。

衝動的にレアソンの後を追って扉へ走った。慌てすぎて蹴躓いてしまった。

レアソンが物音に気付いて振り向いた。イラステーの慌てぶりを見て彼は笑う。

イラステーはぎこちない笑みを返した。レアソンが扉に手をかけそっと開くと男性が立っていた。

「失礼いたします。アイダロス様の使いで参りました。お客人の部屋が整いましたのでご案内いたします。お連れ様がこちらにいらっしゃるとのことでしたが。」

イラステーはレアソンが開ける扉のすきまから外をのぞいた。

レアソンと話す男は見たことのない服を着ていた。元老院と呼ばれた人とも、近衛兵とも、使用人とも違う服装で詰襟のパリッとした身なりをしている。

彼の後ろには誰もいなかった。マルケが返ってきたと思ったがそうではなかったようだ。感覚的には別れてから2時間以上経過している気がする。皇帝陛下との謁見はそれほど時間がかかるものなのだろうか。

「連れはこちらにいる。すぐに支度させよう。」

そう言ってレアソンは扉を閉めた。

「クレウス殿の部屋が用意できたようだ。すぐに出られるかな。」

イラステーは言葉に詰まって大きく何度も頷くだけだった。

イラステーの慌てぶりにレアソンはまた笑った。

「疲れていたのだ。仕方がない。」

「申し訳ありません!」

やっとのことで言葉が出た。イラステーは大きく頭を下げた。

「支度しなさい。外で使いの者が待っている。」

イラステーは急いで背嚢とマントを掴むと扉を開けて待ってくれていたレアソンの傍に寄った。イラステーはレアソンに続いて外に出た。

「クレウス殿はもう部屋におられるのか。」

「いいえ、まだお戻りになっておりません。先にお連れ様を案内せよと、仰せつかっております。」

男は一礼すると歩き出した。2人は男に従った。部屋はケンテラの部屋からそれほど離れていなかった。イラステーは少し安堵した。何かあればすぐにあの部屋をたずれることができる。レアソンの部屋ではないが、誰も知り合いがいないよりはましである。部屋は先ほどのケンテラの部屋と造りがよく似ており、奥の部屋が寝室になっていた。寝台が2台入れられている。もともとなのか、わざわざイラステーのために入れてくれたのかはわからなかった。

イラステーは飛び上がりたいほど嬉しいものを発見した。お湯が入った大きな器と体を拭くための布がベッドのそばに置かれていた。一人になったら体が拭ける。

レアソンがお願いしてくれていたのだろうか。それともケンテラか。よくわからないが素晴らしく気が利いている。一通り部屋を確認し終えたところでレアソンと目が合った。

「クレウス殿はもうすぐ帰ってくるだろう。今日は先に休むとよい。この部屋には衛兵はついていないが王宮内は絶えず兵が巡回している。私はアイダロス様を待つつもりだから、もう少しあの部屋にいる。何かあれば遠慮なく尋ねなさい。」

「お気遣い感謝いたします。」

イラステーは背嚢を胸に抱えたまま、頭を下げた。

「よくやすみなさい。」

彼の優しい声が上から降って来た。イラステーは頭を下げたまま彼と案内役が出ていくのを見送った。扉が閉まり足音が離れたところでイラステーは床にへたりこんだ。

「疲れた…。」

イラステーは大きく深呼吸をした。誰にも見られていないという解放感が嬉しい。メラタイの時とはまた違う緊張感があった。

しかしここでマルケが帰ってきては休む準備ができないのですぐに腰をあげた。イラステーが立ち上がったところで、誰かが扉をノックした。レアソンが何かを伝えそびれたか、マルケが帰って来たのか、後者であることを願った。

イラステーは扉に手を伸ばす。何と言って開けるのが礼儀なのだろう。相手が知らない人だったら?結論を出す前に勝手に扉が開いた。イラステーが驚いて顔を上げると、頭が真っ白になった。

ラドゥケスがそこに立っていた。

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