第5話 約束

「あれはどうなる?」

ラドゥケスは落ち着かない様子でネイバに尋ねた。目線は彼女から反らされることはない。ネイバは友人の動揺ぶりから、控室で何があったか大よそ見当がついたようだった。だが答え合わせは後にすることにした。今は質問に答えないと殺されそうだ。

「メラタイの原則を破るものは、厳しく罰せられる。そして、おそらくあの木偶の棒が決勝に上がってくることになるだろうな。」

ラドゥケスはネイバの返事を聞き終わるか、終わらないうちに、歩き出していた。

ラドゥケスがその場所を見つけるのに、さほど時間はかからなかった。円形闘技場の地下はひんやりとしていた。光が届かないので小さな松明が等間隔で設けられている。仕事柄、人を拘束する場所がどういった位置に設けられているか、特定するのは容易いものだった。しかし、ラドゥケスに先んじてサルトの居場所を突き止めた者がいたようだ。彼女は一番最初に会う番兵に足止めを食らっていた。必死にすがりついても相手は意に介さぬようであった。

「サルトに会わせて!」

その声は悲痛なものだった。

「黙れ!お前も捕まりたいか。」

番兵は凄んだ。取り付く島もないようだ。セラは自分の無力さに泣きたくなった。今まで威勢よく振舞えたのは、いつもそばに姉の存在があったからだ。

「子ども相手に威勢のいいことだな。」

ラドゥケスは、番兵に負けないくらい凄みを効かせて言った。その声に萎縮したのは男だけで、目の前の小さな子どもは、振り返って歓声をあげた。



扉は突然開いた。そして小さな影が飛び込んできた。

「サルト‼」

「セラ!」

サルトは驚きの声をあげた。小さな妹は姉の首にすがりついた。後ろ手に縛られて抱き返すことができなかったが、妹の肩に顔をうずめて、その抱擁に答えた。

もしかしたらもう二度と会えないかもしれないと思っていたのだ。しかし、次の訪問者に気づくとサルトは顔を上げ、セラも腕を緩めた。

「一難去ったと思えば…だな」

サルトはこの状況に既視感を覚えた。

「あんた…」

「安心しろ。あいつの次の相手は俺だ。哀れにも最も招くべきではない事態を奴は自分で選んだらしい。」

ラドゥケスは何か考えるようにサルトを見つめた。サルトは動けずその視線に答えていると、彼はさっとサルトの元へ歩み寄り、自分の羽織を解いてサルトに掛けた。サルトの状態を気遣っての行動だろう。今はセラが影になってくれているが、サルトの服は取調べと言って乱暴に引き裂かれていた。

ラドゥケスは自分の仕事は終わったとばかりに無言で部屋の外へ出て行ってしまった。

「ちょっと…!」

ラドゥケスの一連の行動の真意がつかめず、思わず声をあげた。しかし、彼はサルトの呼びかけなど聞こえなかったようにさっさと出て行ってしまった。

今さらホーティを打ちのめしたところで何になるというのだろう。サルトは彼が去った扉の向こうの空間を見つめた。

それでも、ラドゥケスだけがサルトたちにとって唯一の希望に違いなかった。

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