低密度輸送システムとしての自動運転


日本に住んでいて忘れがちなこと、逆に言うと所用で海外にいくと痛感することの一つが、道路と鉄道の『網の目の細かさ』である。


私など過去に、「まあ、行けばなんとかなるだろ」という自分らしいプランを立てて現地に赴き、目的に見合った交通手段が皆無に等しい状況に直面して(あったり前である)、涙目になったことは二度や三度では無い。


仮に携帯電話が通じる場所でも、ここでタクシーを呼べるのか? 

呼べたとして幾らかかるのか?

結局、半泣きでとぼとぼと何時間も田舎道を歩き続けたこともある。


それに引き換え、日本における公共交通網、特に鉄道路の網の目っぷりは(徐々に過去形になりつつあるとは言え)諸外国と比べて凄まじい。


それが可能だったのは、日本列島が40万平方キロ以下の狭い国土に一億人以上が住むという超高密度な地域である故だが、それでも、そもそも道路や鉄道が『お金のかかるインフラ』であることは違いない。

勘違いされがちなことだが、社会インフラの整備は『狭い範囲だから丁寧に出来る』のではなく、『利用者が多いから費用をかけられる』方が重要なのだ。


むしろ、平地の少ない日本では山間部に居住する人口も多かった訳で、そうした起伏の激しい傾斜地に交通インフラを整備するのは、平地に同じものを作るよりも遙かにコストがかかる。

従って日本においても20世紀のモータリゼーションと共に、自動車が入れない場所にあったり、外部との接続路を自動車が通行できるように拡張できなかった山間部の集落は、ほとんどが消滅した。


平たく言えば、馬や人力に換わって輸送基盤となった自動車を利用するための道路が整備できなかった場所に住む人は減っていき、最終的に居住不適格地として淘汰されてしまったわけである。


そして今、かつてのモータリゼーションによる居住適格地の淘汰と同じことが、少子高齢化による人口減少と、それに伴う限界集落の出現・人口を維持できなくなった町村の消失危機と共に繰り返そうとしている、と言っていいだろう。


人口が少なくなれば、交通機関の利用者が減るのは当然で、一人あたり、もしくは荷物あたりの輸送コストは跳ね上がる。


自給自足の農耕社会ならいざ知らず、現代社会で外部との交通手段が絶たれた居住地は無価値になってしまうので、ますます住む人は減り、輸送コストはさらに跳ね上がり、という悪循環のループに陥ってしまうわけだ。


これを解決するには、ユニバーサルにどこでも利用できて、かつ低コストな輸送手段を用意するほか無いだろう。

居住環境に関してはネットワークの整備だけでは意味が無い。

絶対に物理的な輸送システムが不可欠だ。



そこで、自動運転車両である。


限界集落が生まれているようなエリア(おもに山間部であろう)は、そもそも到達できる道路自体が限られていて、当然ながら交通量も少ない。

そうした場所の方が、むしろ公共交通機関の代替として自動運転サービスをオペレーションするには、安全面などからも好都合では無いかとも思える。


(とは言え、山間部でしかも雪国とかになると自動運転にはハードルが高いのだが、ここでは一般論とさせて欲しい)


鉄道路が廃線になり、一日に数往復しか無いバスでさえも、自治体や運行会社の負担になっているような場所であれば、一度に大勢の人々を運ぶニーズも少ないだろうから、タクシーと同じように普通乗用車のサイズで十分に公共交通として運行できる。


また、従来のバスやタクシーと違って(一つの職業が無くなるかもしれないという意味では非常に残念ながら)運行に人件費がかからないので、24時間・365日、オンデマンドで低価格なサービスを提供できるだろう。


有り体に言ってしまえば、現段階でタクシーが公共交通の代わりにならないのは、多くの人々にとって、その費用が日常的に拠出できるレベルの金額では無いからだ。


そしてタクシーが、『一人の人間を移動させるために別の人間が付きっきりになる』必要があるビジネスモデルである以上、そのコストを無理に下げようとすることは、最終的に誰にも幸福をもたらさない。


つまるところ、鉄道、バス、タクシー、それぞれの「人件費バランス」は、輸送機械とインフラへの投資を平準化して考えれば、日常の運行において『一人のサービスで一度に何人を運べるか?』という問いである。


技術的な問題とバックエンドの維持費用はさておき、運行そのものに関してサービスの提供に必要な人員が『ゼロ』に近くなる自動運転車両が、今後の輸送コストを劇的に下げられることは間違いないだろう。


日本中というか世界中のあちらこちらに『低密度に散在』している交通弱者(含む将来の私自身)の日常生活を向上させるためにも、自動運転の実用化が一刻も早く来て欲しいと思う今日この頃である。


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< 大金持ちであれば未開の原野にある別荘でもヘリコプターで通えるだろうが、一般市民はそういう訳にもいかない。

というか、人々が大挙してヘリコプターや搭乗型ドローンを日常利用できるような世界なら、過疎化の問題はかなり解決できているはずだ...少なくとも技術的には。>


< Wikipediaで調べた範囲ではあるが、実は単純な人口密度だけで考えると、世界の人口密度の平均が1平方キロメートルあたり50人で、トップはマカオ(国家では無いが)の18,424人に対し、日本は336人で第34位となっていた。

もちろん、マカオやモナコのような都市型で人口密度が高いのは当然なので、直接の比較は無意味だろう。日本も東京都に限れば平方キロあたりの人口は6,000人を超えているそうだ。>


< 仮に『人口一億人以上の国家』で比較したとすると、一位はバグラディッシュで人口162,220,000人/1平方キロあたり1,127人、二位はインドの人口1,198,003,000人/1平方キロあたり364人、そして日本は人口127,156,000人/1平方キロあたり336人と第三位に躍り出る。(Wikipedia調べ)

上記のデータはちょっと古いものらしいが、なんにしても、狭くて高密度が日本の代名詞なのは間違いないようである。>

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