IPネットワークで時間を合わせる仕組み


最近は、腕時計を身につけないという方も増えてきたようである。


もちろん、腕時計が必要なくなったのは、ほとんどの人が外出時に携帯電話を持ち歩くようになったからだろう。


いつでも正確な時間を表示してくれるデバイスを握りしめているのだから、ただ時間を知りたいだけならそれで用は足る。というよりも、スマホならタイマーでもストップウォッチでも世界時計でも自由自在に利用できるので、むしろ利便性は高い。


私は「腕時計をつける派」なのだが、これは「どんなときでも手首に目を向けるだけで追加動作なしに時間を確認できるのが便利」という理由だ。


逆に、時間を知りたい時はスマホの画面を表示すればいいじゃないか? と言う人には謎の感覚だろう。


さらに言うなら、私の使っている腕時計はある種ノスタルジックな「機械式腕時計」である。つまり単なる趣味性で選んだ代物で、正確さは時計ごとの精度と状態にもよるが、機械式時計には一ヶ月の誤差が数秒から数十秒、アンティークなどの古い時計では数分くらいの遅れがあっても仕方が無いものと割り切って使わなくてはならない。


もし、腕時計に正確さを求めるのなら、(あれ? いま凄く当たり前のことを言ったような気がする...)現代では趣味的な機械式は諦めてクオーツや電波を使用した時計にせざるを得ないだろう。


時刻を正確にするためには電波時計かGPS時計を使用する必要があるが、どちらも原子時計などの非常に正確な時計をソースにして、UTC(協定世界時)にあわせた時刻を発信している。(GPS衛星が積んでいる時計も原子時計である)

電波時計もGPS時計も、この発信されている「正しい現在時刻」を受信して時計あわせを行う。


携帯電話やスマートフォンの場合は基地局と常にやりとりしているのだから、基地局側が何らかの手段で時刻情報を端末に送ってあげれば万事解決である。

この受信頻度は機器によってバラバラだが、ベースとなるテンポはクオーツで刻み、時々電波を受信して補正していれば実用上の問題は無いというわけだ。


ところで、パソコンの時計表示はどうだろう?


大抵のコンピュータ機器は直接、携帯電話網に繋がっていたり、GPS受信機を装備していたりしないので、内蔵時計か、インターネット経由の接続で解決する必要がある。


このために使われているのがNTP(Network Time Protocol)という通信プロトコルで、各地にあるNTPサーバーという「現在時刻を発信しているサーバー」にアクセスして時間を得る。そして、そのNTPサーバー自身は、他の原子時計やGPS、標準電波などから正確な時間を取得している。

NTPサーバーは世界中に置かれているが、時刻ソースに近い少数の物から枝分かれして増えていく階層構造になっている。このあたりの仕組みは、インターネットのアドレスを解決するDNSサーバーと似たようなイメージだ。


ただし、IPネットワークを経由してくる以上は、経路上でタイムラグが生じることを防ぎ得ない。ネットワークが混雑していれば、それだけで数ミリセコンドから数百ミリセコンドまで誤差の幅が広がる。

サーバーの所在が海外であれば経由するルーターも増えて、もちろんそこでもスイッチング動作によるラグが生じる。

なので、可能であれば複数のNTPサーバーと何度か通信し、時刻情報を得ると同時に遅延などを推定して、それを加味した「現在時刻」を算出する。


そう、言葉通りに現在時刻を『推定に基づいて算出』するのである。


つまり、PCに表示されている現在時刻は、厳密に言うと「おおよそ正確」とか「たぶん合っている」という時刻であって、元になったGPSの原子時計や、標準電波ほど正確ではない。


コンピューターが内部的に持つ時計に、ある程度のズレが生じることは致し方ないので、定期的にNTPサーバーを参照してズレを補正するわけだが、そのズレ具合も、気温やソフトウェア上の問題などで必ずしもいつも同じとは限らない。

たまたま大きなズレが蓄積してしまった時に、NTPでの補正とOSなどの定期的なタイマー動作の設定が重なったりすると、その動作が飛ばされたり、二回続けて行われたりということが起きるかも知れないし、ネットワーク上での協調動作に問題を生じる可能性もある。


まあ、実際は、そのあたりのことも加味してNTPを実装するものなので、きちんと考えられていれば問題になることは滅多にないだろうが、とにかく、ゆるい接続での柔軟性を重視したインターネットを基本にするコンピューターの動作は、ネットワークにタイムラグが存在することを前提とした、少しだけゆるい時間軸に支えられている訳だ。


しかし、時刻合わせに限らず、この『繋がりのゆるさ』こそが、インターネット全体の頑強さを支えている大きなポイントなのだと思う。


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< 電波時計は地域ごとに標準電波の発信周波数が違うので、海外では役に立たないという問題がある。あらかじめ、複数地域の電波に対応するように作られていれば大丈夫だが、日本専用の電波時計を欧州に持って行ってもただのクオーツ時計にしかならない。>


< 昔は電波ではなく「電気時計」と言って、交流電源の周波数によってクロックを刻む時計もあった。もちろん、関東と関西では周波数が違うので切替が必要だ。>

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