デジタルツイン 〜 いずれ仮想世界の礎になるか?


機械シミュレーション関連の話だが、「デジタルツイン」というキーワードがある。(企業によって呼び名が違う場合もある)


何かというと、実際に動くモノ(例えば航空機、船舶、自動車、産業機械など)の設計データを元に、仮想空間上にシミュレーションモデル(デジタルの双子)を構築するのだ。

そして、実機側にとりつけた様々なセンサーから収集した、「リアルで得たデータ」をデジタルモデルに逐一状態として反映させていく。


つまり、実機と同じように振る舞う仮想モデルを構築することで、実機の状態を常時再現し(取り付けたセンサーの数や精度に縛られるが)、いつでもデジタルに分析できる実機を手元に置いておくような形にできる。


そして、実機とデジタル世界の双子は、同じように稼働時間を積み重ねていく。


最初の頃は、実機の動きをトレースし、それを後追いで反映させていくことが中心になるが、十分なデータが蓄積されてくると役割が逆転し、デジタルコピーの方で実機の故障を予測する、といったことも可能になってくる。


これが、現在の単なるシミュレーションと違うのは、個体一つ一つが異なる環境におかれて稼働している機械の、その一個一個をリアルタイムでシミュレーションしていくということにある。

車に置き換えて考えれば、そのデジタルコピーには、実車と同じ「ナンバープレートが付いている」と言っても過言ではないわけだ。

だからこそ、物理世界での出来事をそのままコンピューターモデル側に反映させていくことができる、というのがデジタルツインのミソである。


また、シンギュラリティ到来後の話になるが、「AIで自分のデジタルツインを仮想世界に作らせれば楽なんじゃね? 仕事が二倍できるんじゃね?」と思った方は実行に踏み切る前に、デジタルツインの本格稼働に伴って「実機」の方がレイオフされる可能性を、一応、考慮しておいた方がいいだろう。


...いや、むしろデジタルツインは実機のセンサー情報をリアルタイムに反映しているのだから、実機がサボれば、デジタルツインの方も同時にサボる訳か。これではダメだな。


ともかく、いまはまだ、複雑で高度なメンテナンスを必要とする機械(航空機や貨物船のエンジン、工作機械など)に適応され始めたばかりだが、やがて簡単に利用できる仕組みが整えられていけば、社会のありとあらゆるものに利用されていくだろう。


それこそ自動車や鉄道は言うに及ばず、街角の自動販売機から信号機、エレベーターやエスカレーター、水道ポンプのようなインフラ関連の機器まで、デジタルツインが作成されて、部品交換や整備の必要な時期を事前に予測できるようになっていくはずだ。


そして将来的には「ある機械単独の運用」だけでなく、社会システム全体をデジタルツインでシミュレーションしつつ効率的に運用していく方向に進むだろう。


それだけでも、社会的コストをかなり低減できるだろう。


しかし、さらにその先を考えると、こうして集められた多種多様なデジタルツインの稼働履歴データを、『リアルな仮想世界』を構築する上で、非常に役に立つ背景情報として利用できるのではないかと思える。


「代表的シミュレーション」ではなく、すべての個体のデジタルツインを作成してシミュレーションをしていくというのを実社会に当てはめると、例えば、「街一つを仮想世界上に構築する」と言うことに等しくなっていく。


もちろん、コンピューターの性能がいまの延長線上の進化では難しいし、現実世界のあらゆるデータを取る方向に進化していくはずなので、うっかりすると、いつのまにか「100%監視社会」になってしまうかもしれないが。


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< デジタルツインの先駆者であるゼネラル・エレクトリック(GE)社は、すでにジェットエンジンや風力発電機の保守運用に、この技術を実用化している。>


< リアルな仮想世界の構築までは行かないとしても、様々なデジタルツインから得られた情報は、個々のパーツとしても仮想世界のリアリティを向上させ、より精度の高いシミュレーションを実現していくために役立つだろうと思う。企業ごとに囲い込まずに、なんらかの仕組みで共有できればみんな幸せ、である。>

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