AIという「水晶玉」(その1)
童話やファンタジーの中で、魔法使いのおばあさん(最近では魔法使いの美少女かもしれない)がのぞき込んで、居ながらにして世界中で起きていることを知るための「魔法の水晶玉」というものがある。
言うなればインターネットに繋がったPCモニターのようにも思えるのだが、「どこでもWebカメラ」のようにリアルタイムで望む対象を映し出せる監視カメラでもあるらしい。
またSF映画では、登場人物たちが囲んだテーブルの上に球体のCGがAR風に表示され、その中に敵などの様子が3D映像で表示される、というシーンを見ることがある。
あれは軍事用なので複数人で同時視聴できる高価な大型ディスプレイを用いているが、個人事業者である魔法使いは、そこまで大袈裟なモノは購入できないので、小さな一人用三次元球体ディスプレイをのぞき込むように使っているのだろう。
それに、魔法使いが水晶玉を非常に大切に扱っていることが良く描かれるのも、これが高価で、場合によってはまだローンが残っているかもしれないという状況を示唆している。(もしくは法人向けリース)
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水晶玉が規制すべき盗聴・盗撮デバイスかはさておき、ここで話題にしたいのは「球体三次元表示」の方では無く、『見えないモノを見る力』の方である。
今、AIが活用され始めているアプリケーションの多くが謳っている効能が、まさに『魔法のように、人には見えない(知覚できない)モノを見る』能力の獲得だ。
これが、物や事象を対象としている使い方ならばいい。
微細すぎて人間には気がつけない機械の異常を検知したり、設備の老朽化を察知したり、あるいは、人や車の流れを解析して隠された流路障害を見つけ出す、というのも素晴らしい。
しかし、いま、この『AIの目』が向けられようとしている大きな分野は『人間そのもの』である。
それも、健康管理とか、疾病の発見とかそういう肉体的な物では無く、精神というか『心理』の方だ。
入社試験でも、思想の調査でも、趣味嗜好の暴露でも、なんでもいい。
良かれ悪しかれ、それが人の内面を暴くことに使われ始めている。
ざっくり言えば、ここでの大きな危険は情報利用の『非対称性』にあるのだが、それを是正する仕組みは恐らく用意されないのでは...という気がする。
そもそも、人間は存在しないモノを見てしまう本能を持っている。
壁のシミに顔を見つけ、目玉の模様に意思を感じ取るのが人間の感性だ。
この時、見えない物を見てしまう人間たちが、AIの分析を通じて、存在しない傾向や判断に使うべきでは無い根拠を見つけてしまう可能性は、決して無視できるものではないと思える。
しかしこれは、AIの活用自体が危険だという議論では全くない。
対象が『基本的人権』に触れる物であってさえ、AIの手を借りて自己利益の最大化を図ろうと考える『人間そのものが危険』だということで、結局、問題の根源はAIの技術的洗練度では無く、使用する人間の側にあるという話だ。
『強力な道具』を手に入れた人間は、それを使いたいという衝動に駆られる。
いつの間にか欲求の対象が、得られる結果を求めてではなく、それを使うという体験を求める方にすり替わってしまう、というのは武器に関する議論でもよく見る物だと思う。
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< この手の話題はすぐに「AI脅威論」と取られてしまうことが多いので、正直に言って書きにくい。しかし、現実のリスクは厳然と存在していると思う。>
< 本文中でも述べているが、危険なのはAI自身の暴走ではなく、使い手である人間の『精神的限界』の方だ。ただし、これは決してNRA(全米ライフル協会)的な主張ではない、ということも明記しておきたい。>
< National Rifle Associationの主な主張の一つが「銃が人を殺すのでは無い、人間が人間を殺すのだ」という系統のフレーズである。つまり、「銃そのものに危険性は無く、所持を規制すべきでは無い」という主張だが、確実に『環境と技術が人間の精神と行動を変える』のだから、そんな馬鹿な話は無いだろう。>
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