AIのシンギュラリティと、その先にあるもの


経済や仕事云々ではなく、純粋に技術としてAIが人間を超える賢さを持つようになった時点で何が起きるかというと、あちらは有機体生命(人間)の持つ限界に縛られない、ということだ。


例えば、「ヴァレンティーナ 〜 コンピューターネットワークの女王」という古いSF小説には、自分の意識を一時的にコンピューターのハードウェア上に移し替えた主人公(人類)が、いつもダイエットに失敗する自分の精神を書き換える、というシーンが登場する。

シリコン回路への精神ダウンロードはともかく、修正したコードを元の生きた脳に再アップロードするのは難しく思えるが、これは元からシリコン上にいるAIにとっては、決して不可能ではないだろう。


その時、人間以上に賢くなったAIは、自分で自分を改良することができる。


しかも、遺伝だの、世代交代だの、経験を積むだのと言ったまどろっこしい手続きは一切必要ない。

日進月歩どころか、「ナノセコンド進ミリセコンド歩」と言っていいぐらいの勢いで、加速度的に自己進化を図ることができるだろう。


むしろAIにとっては動作=進化である。


ソフトウェアだけで無く、自分のための新しいハードウェアも設計できるだろうし、あらゆる点で『人智を越えた』活動を行えるようになる。

もし、あらかじめ意図的な制約が設定されていなければ、あっという間に人類を圧倒する『知的存在』になることだろう。


もちろん、十分に複雑な知性を持ったAIの思考状態を簡単にコピーしたり、リスタートさせたりできるのか? とか、いやそもそもディープラーニングの蓄積状態をコード化できるものなのか? などと言う問題はあるのだが、そこは人間の精神さえコード化できるぐらいにテクノロジーが発達していると仮定しよう。


ここで「自己に覚醒したAIが人類をうんぬん」という、ありがちなSF的ストーリーは(とても心が痛いが)ちょっと脇に置いておいて、その自意識と自己改良能力を持ったAIが、特に悪意や征服欲も無く順当に進化を続けていったとすると、人類はどういった対応をするだろうか?


・そっちはそっち、こっちはこっちと互いを認め合って共生するだろうか?


・AIを保護者や仲裁者と認識し、意思決定を全て委ねようとするだろうか?


・自分よりも優秀な存在への嫉妬と猜疑心で破壊しようと試みるだろうか?


だが個人的には、もう一つの可能性が高いのでは無いかと考えている。


それは


・人間が有機生命体のボディを捨てて、AIと同じ土俵で生きるようになる。


という未来だ。


ただし、『仮想世界に生きる』というのとは違う。シリコンでもガリウムでも炭化ケイ素でもいいのだが、とにかく工業生産できて情報の保有力と処理/伝達力の高い回路の上に、自らの精神をダウンロードするのだ。


そして有機体のボディにはもう戻らず、完全に電子回路上の知性的存在になる。


時空を越えた第四の壁の向こうから、「どこがSF的なストーリーはちょっと脇に置いておいてだ! ああ?」という怒りの声が聞こえてくるが(ごめんなさい)、私はこれを現実に起こりうる可能性として、しかも、かなり高い可能性として考えている。


もちろん、すぐには無理だ。


それはテクノロジーの制約だけで無く、人間の心理的にも、かなり障壁の高い行いだろうとは思う。仮に技術的な障壁が克服されたとしても、人々がその方向を順当に受け入れるようになるまでに時間もかかるかもしれない。


ただ、それと同時に、そもそも生物としての人間には、そういう方向に進む『蓋然性が内包されている』というようにも思うのだ。


だから本音を言うと、いったんそちらの方向に舵が切られたら、決して後戻りすることは無く、雪崩のように事態が進むだろうと考えている。


人は自分よりも優秀なものに憧れる。


それが決して手に入らないとなったら、価値を過小評価する(酸っぱいブドウ効果)が、もし、現実的に入手可能となったら、単なる倫理観でそれを押しとどめることは難しいように思える。


「人間として生まれ、人間として死ぬ」という以外の、これまでは存在していなかった『選択肢』が提示されたとしたら・・・?


人間を遙かに超える能力と不死性を持ったAIが目の前にいて、自分もそれと同等な存在に『アップグレード』できるとしたら・・・?


なによりも、自ら『望まぬ死を回避』できるとしたら・・・?


それでもあなたは、『生命で有ること』を全うする方を選ぶだろうか?


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< 電子回路に移住した後、人生に飽きたときに、いつでも『自死』できるというのは、重要というレベルでは無く必須のオプションだと思う。>


< 意識を電子回路上に移しても、『仮想世界で生きるのでは無い』という意味と、進化の蓋然性が、どうして肉体を捨てることになるのか?ということは、項を改めて議論したい。>

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