第四章⑨

「嘘だ……」

「事実さ。年齢を考慮された結果、公表されているのは刺殺という直接の死因のみ。警察につてがあるなら、もう一度母さんの司法解剖の結果を取り寄せてみればいい。俺が喰った跡が残っているはずだから」

 へたり込んだ合田を横目に、俺は花さんと電話で話していた内容を思い出していた。

 バケモノといえば、何をイメージするのか。

 バケモノの定義。

 それは、人を喰べる存在だ。

 人喰いだ。

 バケモノは人喰いのことだと言えば、違和感を感じる人は、あまりいないと思う。

 だからユリさんは、俺の顔を人間として認識できるのだ。

 俺がバケモノだから。人を喰ったことがあるから。

人喰いという存在は、ユリさんにもイメージし易いはずだ。

 故に人間の顔がバケモノに見えてしまう彼女には、バケモノである俺の顔を人間として認識することが出来る。

 彼女だけは、俺が人間(バケモノ)であることを見抜けるのだ。

「親が、子を。そんな、そんな事が……」

「……」

 呆然自失となった合田を見ていると、俺のスマホにメールが届いた。

 メールの送り主は、飯田さん。内容を確認すると、俺はすぐさまユリさんの手をとった。

「行こう」

「え、ちょ、ど、どこへ?」

「病院だよ」

「乗ってくかい?」

 そう言ってくれる花さんに、俺は苦笑いを返した。

「流石に、三人乗りは無理でしょ」

「それもそうか」

「……それじゃ、行ってきます」

「おう。いってらっしゃーい」

 花さんの言葉に背中を押され、俺はユリさんの手を引きながら走りだす。

「おい、サトル。どうしたんだ? 一体何があったんだよ!」

「間に合うんだよ!」

「だから、何が?」

 よくわからないといった表情のユリさんに、振り向きながら、俺は叫んだ。

「今なら、まだ間に合うんだ! 間部さんが、自分の子供を殺してしまうのを止められるっ!」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る