第四章①

 血が流れる。

 血が流れる。

 血が流れる。

 俺の両手は、血だらけだ。

 相変わらず、波も収まらず、風も止まず、雨も遠慮というものを知らない。

 だから俺の両手は、波に拭われ、風に吹かれ、雨に雪がれる。

 それでも。

 血が流れる。

 血が流れる。

 血が流れる。

 俺の全身は、血だらけだ。

 大海原に漂流している、救命ボートに出来た血の海で、俺は一人溺れていた。

 世界から切り離された紅色の絶望の中、俺はたった一人沈んでいく。

 どうして、こうなってしまったのだろう?

 どうして、こんなことになってしまったのだろう?

 その答えを知りたかった。しかし、それは無理だとわかっていた。

 ここにはもう、誰一人としていない。

 俺は、世界から切り離されてしまった。

 一人に、なってしまった。

 それでも。ああ、それでも、何故なのだろう?

 この赤い、朱い、赫い、淦い、丹い、明い、紅い、絳い、緋い血に。

 俺は、母さんの温もりを感じていた。

 記憶にはない、俺が生まれたばかりの赤子だった頃。母さんに抱いてもらった、あの時の温もり。

 それが、急速に冷めていく。

 ダメだと思った。この温もりを手放せば、俺は一生、一人ぼっちになってしまうと思った。

 だから、俺は必死にかき集めたのだ。

 そんなことをしても、無駄だと知っていたのに。

 もう世界から切り離され、一人ぼっちなんだと自覚していたのに。

 それなのに俺は、自分から人間であることを、止めた。

 こうして俺は、世界で独りぼっちになったのだ。

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