第二章①
体中が、痛かった。痛みの原因はわかっている。空から弾丸が降ってくるのだ。
違う。これは、雨だ。
あまりにも寒すぎて、皮膚が痛みを感じている。弾丸を撃ち続ける雨雲に稲妻が走り、雲がナイフのような鈍色に見えた。
ナイフから銃弾が撃ちだされるという矛盾に、俺は力なく笑う。そこで、自分にまだ笑うだけの力が残されていることに気付き、驚いた。
俺は今、太平洋にいる。いるはずだ。もう自分が何処にいるかもわからない。
わかっているのは、雨粒に体温と寿命を削られながら、救命ボートに横たわっている、漂流しているということだけだ。
食べれるものは、もう何も残っていない。だから、自分の命を削る雨粒すら俺にはごちそうだった。もう自分が何を考えているのかわからない。ただひたすら口を開けて、雨粒を飲み込んでいるだけだ。
それでも、こんな状況でも俺が気を違えていないのは、このボートにもう一人、搭乗者がいるからだ。
「覚」
名前を呼ばれ、俺は何とか体を起こした。もう一人の搭乗者に、目を向ける。
そこにいたのは――
そこで、俺は目を覚ました。
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