11.劣化のポーション
店を出ると、アリシアが何かを思い出した様子で「あっ!」と声を上げた。
「ん? どうかした?」
気になったケイはアリシアの方を見る。
すると、アリシアは一枚のメモを取り出し、書かれている内容を確認していた。
「えっと、すみませんケイさん。お母さんに頼まれたおつかいを忘れてまして……」
申し訳なさそうな表情を浮かべながら、アリシアが事情を説明する。
「それじゃあ次は、アリシアの行きたい店に行こうか」
「えっ? いいんですか?」
「うん。自分は色んなところを回れればそれでいいからね」
これといってすぐに行きたい場所もないので、散歩感覚で街を歩くのも悪くないだろうとケイは考えた。
「ありがとうございます!」
「それで、店はどこにあるんだ?」
「あっ、場所自体はすぐそこなんですよ」
アリシアが正面の方を指差した。その先に視線を向けると、『ローズの道具屋』という看板を掲げた店が建っていた。今さっき出てきた店の向かい側だ。
どうやら、散歩をする時間は無いみたいだ。
「ふぅ、看板を見ておつかいを思い出しました。危うくお母さんに怒られるところでしたよ……」
安心したようにアリシアは息を吐く。
「よく怒られたりするの?」
「い、いつもじゃないですよ?」
図星だったのか、少し慌てながら返してくるアリシア。その様子が面白かったケイは、笑いながら返答する。
「そっかそっか。それじゃあ今日は怒られないために、買い忘れのないようにしなきゃね」
「もう! ケイさんはイジワルです!」
アリシアに背中をペシペシと叩かれながら、ケイたちは道具屋の中へと入っていった。
◆
「ごめんくださーい」
アリシアは入店を告げるため、少し大きめの声を出して挨拶した。しかし、しばらく待っていても返ってくる声は一つも無かった。
「あれ? 誰もいないのか?」
そう言いながらケイは店内を見渡してみるが、やはり人の姿は見えなかった。一瞬、定休日なのではないかと考えてみるが、店に鍵が掛かっていないのは不自然だ。
「あぁ、多分奥の部屋で寝てるんだと思います……」
アリシアが呆れた表情を浮かべながら嘆息していた。
「店の人と知り合い?」
「はい。ここの店主はお父さんの昔馴染みでして、良くこのお店を利用させてもらってるんです」
「へえ、そうなのか」
副ギルド長であるアリシアのお父さんの昔馴染みということは、ここの店主は冒険者なのかもしれないなと、ケイは考える。
「ただ、かなり変わった人なんですよね……」
「どんな人なんだ?」
「うーん、説明するより見てもらった方がいいですね。ちょっと起こしてくるんで、ケイさんはここで待っていてください!」
アリシアは不吉な言葉を残しながら、店の奥にある部屋へと走っていった。
手持ち無沙汰になってしまったケイは、店に置かれている商品に目を向ける。
壁際に設置された棚にはロープ、ろうそく、革袋、大きな鍋、木で作られた皿など他にも様々な物が適当に並べられていた。埃は被っていないようなので、掃除はしっかりとされているみたいだが、乱雑に物が置かれているせいで汚く見えてしまう。
この状態では、どこに何があるのか分からないなと思いつつ、一つ一つの商品を見ていると二種類のガラス瓶が目に付いた。
ガラス瓶の形状はどちらも同じで、小さな栄養ドリンクのような形している。口の部分にはキャップではなくコルクが使用されていており、ガラス自体は透明のため、中に入っている液体が良く見えた。
片方には赤色の液体が、もう片方には緑色の液体が入っていて、ケイは赤色の方だけ見覚えがあった。ケイは自身の想像しているものと同じものなのか調べるために、赤色のガラス瓶を手に取り【
すると、すぐに予想通りの結果が返ってきた。このガラス瓶は【タナトス】で手に入る回復アイテムの【ポーション】だ。効果も変わらず、使用すればHPを150回復できるということがわかった。
スキルの結果に満足したケイは【ポーション】を棚に戻し、次は緑色のガラス瓶を手に取った。
このガラス瓶については、ケイの記憶に存在しない。【ポーション】の上位互換となるアイテムはいくつかあるが、中身は全て赤色の液体のはずだった。
【タナトス】に存在しない回復アイテムではないかと考えたケイは、少し緊張しながら【鑑定】を発動した。スキルは無事に発動し、手に持ったガラス瓶の情報が頭の中に流れ込んでくる。
その情報を見たケイは困惑した。
「【劣化のポーション】? なんだこれ?」
何度か確認してみるが、結果は変わらない。このガラス瓶の名前は【劣化のポーション】で、HPをたった30だけ回復できるみたいだ。
「劣化しすぎだろ……」
素直な感想がケイの口から漏れた。
回復アイテムは、回復スキルを持っていないものが多い近接戦闘系の【
だが、この性能では焼け石に水だ。戦闘中に使用したとしても、その後すぐに攻撃されれば、回復分以上のダメージを受けることになるだろう。戦闘終了後に使用するとしても、回復量が微々たるものなので大量に必要となる。遠征やダンジョンに潜る場合、下手すれば数百個は必要になるかもしれない。
こんなものでよく冒険ができるなと、ケイはある意味感心していると背後から声をかけられた。
「おや? そのアイテムが気になるのかい?」
女性の声だった。しかし、アリシアのものではない。
ケイはアリシアが呼んできた店主なのだろうと思い、声がした方に振り返る。
その姿を見たケイは、思わず声を上げてしまった。
「……酒くさっ!!」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます