2.スタート地点は森
おかしい。マイハウスを建てた場所は、【タナトス】を始めたとき最初に訪れることになるナハト村のすぐ近くのはずだ。
こんな周りが木と雑草に囲まれた場所ではない。
しかし、何度あたりを見回しても人工物はおろか、人の気配すら感じることができない。
「これは悪夢の可能性が浮上してきたな」
嫌な予感を感じながらウィンドウを開きマップを確認する圭。
「嘘だろ……」
驚きのあまり目を見開く。そこには見たことがないマップが表示されていた。
ナハト村はもちろん、他に知っている街や村も全て消えてなくなっていた。
というか、大陸の形自体が違う。【タナトス】の舞台である大陸よりも明らかに大きい大陸になっていた。
「ここは一体どこだ?」
慌てて自分の現在位置を確認する。どうやら大陸の西に位置する小さな森の中心に居るようだ。
「一番近くにある町は……」
マップを指でなぞりながら探す。
町はすぐに見つかった。
「ここから東に3km進んだところにアルベルドっていう町があるな」
圭の記憶が正しければ、【タナトス】にアルベルドという町は存在しないはずだ。
「……わからないことが多々あるけど、まずは情報収集のためアルベルドに向かうとしますか」
マップのウィンドウを閉じると、次にアイテムのウィンドウを開いた。
ここが【タナトス】と違う大陸ということは、圭の知らないモンスターが出てくる可能性があった。
【タナトス】で圭に倒せないモンスターは存在しないが、ここには自分より強いモンスターがいるかもしれない。
この世界で死ぬと、どうなってしまうのかわからないため、最強装備を準備することにした。
「アイテムも念じれば出てくるのかな?」
ウィンドウを出した時と同じ要領で、頭の中にSSSランク武器【聖剣 ミスティルテイン】をイメージし『出てこい』と念じた。
念じた瞬間、圭の右手に光が集まり剣の形に収束した。光が収まるとそこには【ヘルデーモン】を倒すときに使用した、金色の剣が現れた。
「よし、無事取り出せたな」
握られた剣を眺めながら安堵する圭。どうやら素手でモンスターと戦うことはなさそうだ。
「次はスキルの発動だな。アイテムも取り出せたし出来るだろう」
圭は周囲の情報を調べるため【
【探索】とは周囲300m以内に存在するキャラクター、モンスターをマップに表示するスキルである。
無事、スキルの発動に成功するとウィンドウが表示された。
ウィンドウの中心には自分自身を表す青い点と、その周りに赤い点が疎らに映っていた。赤い点はモンスターを表している。
「やっぱりこの世界にもモンスターは存在するみたいだな」
ウィンドウを見つめながら呟くと、東に赤い点が1つあることに気付いた。
目的地であるアルベルドもここから東。避けて進めないこともないが、少しでも情報が欲しい圭はそのモンスターと戦うことを決めた。
「この世界に来て早々、モンスターと戦闘か」
余裕そうに言う圭だったが、油断は一切していなかった。
【探索】のスキルではモンスターの位置がわかっても、その強さまではわからない。
最悪の場合、東にいるモンスターが規格外の化け物で、出会った瞬間に殺される可能性だってある。
しかし、圭には7年間培ってきたゲームの腕という武器がある。どんなモンスターが出てきても、そう簡単に死ぬつもりはなかった。
「準備も出来たし、そろそろ行くとしますか」
圭は剣を強く握り直すと、アルベルドを目指し森の中を進んでいった。
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