第17.5話 タツキとナツキ



━今から5年前のある夜━。





俺は、いつものように部屋で勉強していた。







コチ、コチ、コチ…。



『…もうこんな時間か、そろそろ寝るか。』


立ち上がりながら時計を見て、俺がそんなことを呟いたその時。



ドーン!



下の階の部屋の方から、大きな音と共に衝撃が伝わってくる。


『な、何だ!? 』


よろけて転びそうになるのを踏ん張りながら、俺はそう言う。



……確か下には、母さん達が…。





ガチャッ。



そう思いながら俺が部屋を出ると、ほぼ同時に向かいの部屋からサツキ兄さんが出てくる。


『…お前はここにいろ。』


ナイフを持ったサツキ兄さんは俺にそう言って、階段を降りていった。





……一体、下で何が…。






サツキ兄さんにはああ言われたものの、気になってしょうがない俺はゆっくりと階段を降りる。



あと少しで1階、という所まで降りてきた時。


俺はある異変に気づいた。



…灯りがついていない。



そう、1階の灯りは何故か消えていてまるで停電しているようだった。


それに加えて、階段付近には何かシミのような飛沫痕。


暗くてよく見えないが、多分これは……血。


『! 母さん! 父さん! 』


1階についた俺が目にしたのは、床に広がった血溜まりに倒れている母さん達。


瓦礫につまづきながらも、俺は母さん達に駆け寄るが、既に手遅れだった。


1階はすごく荒れていて、窓際には大きな穴が空いている。


『ナツ…キ…。』


少し離れた所で、サツキ兄さんの声が聞こえる。


『サツキ兄さん! 』


俺はそう言いながら、サツキ兄さんに駆け寄る。


『逃…げろ。』


サツキ兄さんはそう言うと、倒れてしまう。


『サツキ兄さん! 』


そう言って、俺が体を揺すっても起きる気配はない。


『ああ、まだいたんですね。』


ふと、頭上からそんな声がし、顔を上げると。


『久しぶりですね、ナツキ。』


『タツキ…兄さん…。』



…何でここに。


魔法学校にいるはずじゃあ…。



俺の家は代々、王家に執事として仕えてきた家系だった。


タツキ兄さんは、より良い執事になる為だと言って、普通の学校を卒業した1年前から、魔法を学びに行っていた。


だからサツキ兄さんは、長男のタツキ兄さんに代わって、2年早く執事になって、学校に通いながらその仕事をしていた。(普通は18歳で任命される)



…魔法学校に一時帰宅はない。


少なくとも、タツキ兄さんはあと2年は学ばないと帰ってこれないはずだ。


それなのに何故。





スッ…。



状況がつかめないでいる俺の前で、タツキ兄さんは人差し指を天井に振り上げる。


『…そして、さようなら。』



ドドドッ…!



タツキ兄さんがそう言うと同時に、どこからか無数の火の玉が部屋に降ってくる。


『っ!? 』


当然、それは俺に向かっても降ってきていた。


6つほどの火の玉が、今にも俺にぶつかるといったその時。



バッ━。



倒れていたはずのサツキ兄さんが、俺に覆い被さった。



ドドッ!



6つほどの火の玉のうち、5つほどがサツキ兄さんに当たる。



…ドッ!



そして、サツキ兄さんの肩をこえてきた火の玉の1つが、俺の左目に当たった。


『っ…ぐ…。』



…左目が、焼けるように熱い。



『…ぐ…はぁはぁ…サツキ兄さん! 』


俺は痛みを堪えて、サツキ兄さんの体を再び揺する。


『……キ。女王…様を…。頼んだ…ぞ…。』


サツキ兄さんは、俺の顔を見て微笑みながらそう言うと、それきり動かなくなった。




ゴオォォォ…。



『さて、そろそろ行きますか。』


最後に渦巻く炎の中で見えたのは、窓際の大きな穴の付近でタツキ兄さんが懐中時計を見ながらそう言っている姿だった。













『…さて、そろそろ行きますか。』



そして5年たった今、傷だらけになり道に倒れている俺の頭上で、タツキ兄さんは同じ台詞を口にした。













「そっか…ヴォルスと、タツキさんか…。」


光樹が女王様達を呼んできた後、ナツキさんはある村にヴォルスとタツキさんが現れたということを報告した。


体の傷はタツキさんとの戦闘によるものらしい。


「…ヴォルスで間違いないのかい? 」



深刻な表情でレオ様がそう聞く。


「はい。…タツキ兄さんがそう言ってました。」


「…そうか。」


「…タツキさんって、ナツキさんのお兄さん…なんですか? 」


私は、気になっていたことを恐る恐る質問してみる。


「…はい。そうです。」


「そうだったんですか…。」



私は、タツキさんとナツキさんが重なった理由が分かった気がした。


「タツキさん、何か言ってました? 」


「…そういえば…復活までもうすぐ…とか言ってた。」



光樹の質問に、その時のことを思い出しながらタツキさんは答える。


「復活…確かあの村には、ヴォルス一族を封じてあると伝え聞いたことがあります。」



険しい顔で、レイ様がそう言う。


「それは、村のどこら辺ですか? 」



「そこまでは…。」


「二度と封印がとけることがないよう、その村、とまでしか伝えられてないんだ。」


光樹の質問に、申し訳なさそうな顔で、レイ様とレオ様はそう言う。


「そうなんですか…。」


「あ! でも、光の宝玉は近くに行くと反応して光るらしいよ。」



残念そうにする光樹を見て、思い出したようにレオ様はそう言う。



…光の宝玉…って私の持ってるやつのことだよね…。




「そうなんですか? 」


「はい。」



私がもう一度確認すると、ナツキさんが頷く。


「そっか…もしかしたら、タツキさんはヴォルス一族を復活させようとしているのかもしれない。」


「…そうね。村人の救出と一応、封印場所の確認をお願い。」



光樹とレイ様はより険しい顔でそう話す。


「畏まりました。」


結希、と小声で光樹に名前を呼ばれた私は、自分も返事をするのだと気づき、少し遅れて返事をした。



[タツキとナツキ]


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る