第17話 始まりの知らせ


私がこの世界に来て、1ヶ月がたった。


依然として、隼斗さんは見つかっていない。


そんな中、訓練をある程度積んだ私はいよいよ今日、女王直属部隊のリーダーとして着任することが決まった。



…光樹と一緒にだけど。



そして、私のことを知った女王様が私に会いたいらしく、私達は城へ来ていた。


「私は、アロウ王国59番目の女王、レイです。こっちは夫で国王のレオ。貴女が例の子ね。」


レイ様は私に微笑みかけながらそう言う。


「は、はい。」


髪は濃い茶色で、ハーフアップにして後ろをバレッタで留めている。


顔は整っていて、凄く綺麗な人だと思った。

レオ様も顔が整っていて、世間一般的に言う、イケメン という部類にはいるだろうなと思った。


髪は濃い藍色で、くせ毛なのか、少しふわふわしている。


「どこの国の出なんだい?」


レイ様の隣に座っていたレオ様が微笑みながらそう言う。


「え、えーっと…。」



…どこの国とか言われても、国どころか違う次元から来たんですけど。


「僕と同じです。」


「え。」


「そうなのか、色々大変だと思うけど、頑張って。」


「は、はい…。」




ーーーーーーーーーーーー



『他の世界から来たことは俺達以外には喋らない方向で。』


『何でですか?』


『色々と面倒だからだよ。みんなにも言っとくから、結希もそうして。』


『分かりました…。』




ーーーーーーーーーーーー



…女王様達にも隠すんだ。


私が旭との会話を思い出しながら、そんなことを思っていると。



バンッ。



突然後方の扉が開き、傷だらけの男の人が入ってきた。


服装からして多分、兵士ではない。


「…ヴォルスが…ヴォルスが現れ…ま…した…。」



ドサッ。



なんとかそれだけ言うと、男の人は扉付近に倒れてしまった。



「ナツキさん!」


光樹はそう言って、男の人のもとへ駆け寄る。


「誰か早く手当てを!」


「は、はい!」


「おい、誰か外を見てこい!」


レオ様の言葉を聞いた兵士達は、そんなことを言いながら、慌ただしく動き出すのだった。







ーーーーーーーーーーーー






「はぁはぁ…。…なん…何なんだよ!あいつら!」


「いいから走れ!リク!」


オレは兄ちゃんと必死に逃げていた。


何から逃げているのか、多分オレも兄ちゃんも分かってない。


…でも、アレからは逃げなくちゃいけない気がするんだ。


でないと…。


「う…わっ!」



ズシャァァァ。



そんなこと考えながら走っていたオレは、転んでしまう。


「リク!」


前を走っていた兄ちゃんが、そう言って戻ってくる。


…早く逃げないと殺される。


父ちゃんも母ちゃんもアレに殺された。


早く逃げないと…。


そう思いながらオレが立ち上がると。


「…リク、ちょっと来い。」


そう言って、兄ちゃんは無理矢理オレを引っ張る。


「い、いてぇよ!兄ちゃん!」


そう言うオレを無視して、兄ちゃんはオレを数メートル先の路地を左に入った。


そこには藁が沢山積まれていて、奥に道はなさそうだった。



ばふっ。



兄ちゃんは無言で、オレを藁へ投げ入れる。


「な、何す―。」



ばふっ、ざっざっ…。



次に、持っていたタオルをオレに投げつけると、オレに藁をかけはじめた。


「に、兄ちゃ―。」


「口にタオルをあてとけ。」


オレは一応、言われた通りにはするけど、訳が分からない。


「どういうことだよ!兄ちゃん!」



ざっざっ…。



「…いいかリク。絶対にこの中から出てくるな。絶対にだ。喋らないで静かに、じっとしてるんだ。」


「兄ちゃんは!?」


「……分かったな?」


完全にオレを藁に埋め、兄ちゃんはそう言う。



…何だ、この感じ。


兄ちゃんは一体何を…。



「…じゃあな、リク。じっとしてろよ。……約束だ。破ったらいつものやつだからな。」


そう言うと、兄ちゃんはどこかへ行ってしまったようだった。


ーーーーーーーーーーーー




…リクだけでも守るんだ。


そう思いながら、俺はリクのいる路地を出る。



ザシュッ。



すると次の瞬間、俺は何者かに背中を斬りつけられた。


「くっ…。」


「やぁっぱ見間違いじゃなかったかぁー。あれー?でも、2人いなかったかぁ?」


俺の背中を刀のような手で斬ったソレは、そんなことを言う。



…さっき、リクが転んだ時に見えたヤツだ。


急いで逃げたが、やはり見られていたらしい。


「…ふ、ふたり?はぁはぁ…お前の…、気のせいじゃ…ない…のか?」


俺はそう言いながら、痛みを堪えて振り返る。


「ふーん。まぁ、どっちでもいいやぁ。」



ドスッ。


…ブシャアァァァ。



ソレは、そんなことを言いながら、俺の胸を刀のような手で突き刺した。


「ぐはっ…。」


俺の胸から血が吹き出し、それと比例するように体から力が抜けていく。




「ちょうど腹も減ったことだし━。」



……こいつ、もしかして4年前の…。


だとしたら、あの人達…… アルコイリーズ が来てくれるはずだ。


「食べよぉ。」



ドシャッ。



そう言ってソレは、俺から刀のような手を抜いた。


もはや立つ力も残っていない俺は、そのまま地面に倒れる。



……きっと、あの人達は来てくれる…だからそれまで…。


そう考えている俺に向けて、ソレが刀のような手を振り上げる。



見つかるなよ…。



そう思いながら、俺は目を閉じた。




リク―。



[つづく]

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る